ハンガリーに来て早3年目となりました。5月にディプロマを控え、いよいよ学生生活にピリオドを打ちます。
中学を卒業と同時に親元を離れ東京へ上京、大学卒業までの7年間を学生寮で過ごしながら、音楽にどっぷり浸かった生活を送りました。卒業を目前とした大学4年、日本の音楽大学院進学か、就職か、それとも「留学」という夢に突き進むか・・・。とても悩み、迷いました。日本で長い間師事していた先生からは「あなたは留学するべき。日本の大学院に進学しては潰れてしまう」と、両親からは「ここまで頑張ってきたのだから、一度は海外に出してあげたい」と温かい支援がありましたが、それでも悩む私に、兄は電話で「お前は海外に行って来い。大丈夫だから」と。大学を卒業するのと同時に学び続けることを半ば諦めていた私にはあまりにも優しく、心強い言葉で、涙が止まらなかった事を今でも覚えています。
ドイツ・ロシア・チェコ・ハンガリーの音楽院のセミナーや試験を受け、留学権を獲得していました。幼少期よりハンガリーの作曲家バルトークの音楽に親しんでいた事、私が「留学」というものに対して抱く真意「何をどう学ぶか」を考え、「この先生の元で学びたい!」という想いからハンガリーに決定し、今に至ります。留学当初から私の中に「留学」という事へのはっきりとした目標やスタイルがありました。レッスンのみのパートタイム生として過ごした1年目は1日中ピアノ(音楽)だけと向き合える、好きなだけ弾いていられるという私にとっては夢のような生活で、観光もせずピアノに向かい、レッスンを心待ちにしていました。受け身ではなく、自分自身がその音楽をどう感じ取り、どう表現したくて、どういう音楽を伝えたいのかという意思や考えを持ちレッスンに臨まなくては意味がないと思い、1回1回のレッスンを大切に、全力で自分の音楽を先生に伝えるよう心がけています。本人から生まれる音楽を重要視してくださるので、それが伝わるよう努力すれば先生は必ず応えてくださり、更に良い方向へと導いてくださります。私の「学び」への願望はあっという間に2人の素晴らしい先生によって叶えられ、わずか3カ月で「満足、悔いはない!」と思ってしまうほどでした。半年ほどが過ぎ、籠ってばかりいた家から飛び出し、街を歩いてみたり、景色を眺めたりしながら改めてこの地にいる意味を考えました。レッスンを受ける事はもちろんですが、その地で生活をするという事の意味を考え、多くの事を五感で感じ、吸収していきたいと強く思いました。
院生になってからはレッスンの他に授業もあり、思うように練習時間が確保できない事もありましたが、短時間でどう練習をしてどういう生活スタイルにしたらベストな状態でレッスンに臨めるかなど、1年目の生活リズムから一転してメリハリのある生活を心がけましたが、1日、1週間はあっという間に時間が過ぎてしまい、週末にはプシューっとバッテリー切れになる事も多々ありました(笑)
ハンガリーに来てからの一番の変化、それはやはり演奏です。私が日本で在籍していた高校大学は、実技試験にて基準点に達しなければ演奏家コースからピアノ科へ転科という厳しい規定があり、今思えばかなりのプレッシャーの中でピアノに向かっていましたし、どんなに努力しても報われない事、努力だけではどうにもならない事が多く、ナーバスになる事も少なくありませんでした。しかしハンガリーに来てからはそれまでの事が嘘のように、演奏会でも試験でも、ピアノに触れ、音楽を奏で、表現する事がとても楽しく幸せに感じて、自分に与えられたその一瞬を、心から幸せに思い楽しめるようになりました。その変化は聴く人にも伝わるもので、一時帰国の際に再開した日本の先生からは「演奏が変わったわね。あなたの表情も明るくなったし、とても楽しそうね」と。完全ではありませんが、私が求めていた感覚に近い音楽を自然に自由に奏でられるようになってきた事、それを一緒に喜んでくれる人がいるなんて、私は幸せ者で贅沢だな、と思ってしまいます。
今まで音楽の世界の中だけで生きてきましたが、ハンガリーに来た事で、他の分野で学ぶ方々や世界中を旅されている方々などに出会い、それまで知る事もなければ触れる事もなかった世界を見る事ができました。それは私自身の人間としての成長にも繋がる素晴らしい出会いと経験だったと思います。
学びに終わりはありません。学ぶことに恵まれたのですから、生涯学ぶ姿勢を崩さずに、自分が学んできた事、考えた事、感じた事、経験した事など一人でも多くの方に伝えられたら良いなと思っています。
ここまで音楽の道を進んで来る事ができたのも、留学できたのも、そしてこの地で学び幸せな時間を過ごして行けるのは全て周りの方々のお陰です。学べる事、そして周りで温かく支えてくださっている全ての方に感謝致します。微力ではありますが、日々精進して行く事が恩返しの一つだと思ってこれからも努力して参りたいと思います。
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