「よし、次は21キロに挑戦しよう!」
そう思ったのは、昨年のナイキマラソンを走り切った時の事でした。2年前、この大会に出場する子どもたちの応援に行った時、一生懸命に走る子どもたちと、楽しそうに走っているたくさんのランナーの姿を見て、胸の中に何か熱いものがこみ上げてくるのを感じました。今まで、私の辞書には「マラソン」という言葉はありませんでした。しかし、この日をきっかけに、「マラソン」という文字が、しっかり太字で刻み込まれました。これが、昨年のナイキマラソンへの初参加へとつながりました。
今年は「21キロに挑戦しよう」と、心の中では覚悟を決めていました。後は、計画・実行あるのみでした。しかし、仕事の忙しさに託けて、練習のスタートが遅くなってしまいました。気持ちはあるものの、体がついてきません。先ずは、1キロから。次に2キロへ。筋肉痛になったところで体を少し休め、次に3キロへと自分なりの調整に入りました。教育現場は、おもう以上に体力勝負のところがあります。自分のためにも、子どもたちのためにも、踏ん張れる体をつくらなくてはと、自分を奮起させながらの挑戦が続きました。しかし、思うように調整が進まない中、申し込み締切日が近づいてきました。私の机の上には、二枚の申込書がありました。一枚は「21キロ」、もう一枚は「3.5キロ」の申込書でした。
ある日のことです。私が「少し外を走ってくるよ」と声をかけ出かけようとすると、小二の娘が「私も一緒に行く!」と付いてきました。「よし、それじゃ一緒に走ろう!」と、その日は、二人で気持ちのいい汗を流すことができました。次の日、息子も一緒に走らないだろうかと思い、声をかけてみました。すると、意外にも「いいよ!」という返事が返ってきました。一生懸命に後をついてくる子供たちの姿は、私が忘れていたものを思い出させてくれました。
ふと思えば、仕事の忙しさに託けて、我が子と共に過ごす、共に一つの事に取り組むことがなかった父親の自分に気がつきました。その日、私のこのマラソンに対する気持ちが変わりました。「子どもたちと一緒に手をつないでゴールしたい」という思いに・・・。
山登りにも色々な山登りがあります。重装備をして、酸素ボンベを担いで、何年も計画して挑む山登りもあれば、お弁当を持って、周りの景色を楽しみながらゆっくり登る山登りも。私は、心のどこかでエベレストに登ることこそが、山登りだと思っていたのかもしれません。ここハンガリーに来て、色々な経験をし、色々な方に出会う中で、私は人生の送り方の大切なヒントを頂いたような気がしています。また、このヒントは、これからの教師生活にも、十分生かしていけるものではないかと思っています。
両手に、汗をかいた小さい手を握りしめ、走り抜けたあのゴールラインは、私の新たな人生(親として、教師として)のスタートラインだったのかも知れないと思っています。 |
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