過剰なソロス批判の愚、一線を越えた FIDESZの EU批判
盛田 常夫
ソロスを批判し、意趣返しする FIDESZ政権 反ソロスキャンペーン |
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「ソロス計画に声を上げよう、国民コンサルテーション」 | |||||||||||||||||||||
長期にわたる政府の宣伝や政権政党の政治運動もあって、質問票へ回答(ソロス計画に反対)は 200万通を超え、政府は大成功と自賛したが、ハンガリー政府から欧州委員として派遣されているナヴラチッチ・ティボール(教育・文化・青年・スポーツ担当委員)は、「政府が 2015年のソロスの言動にもとづいて一つ二つの質問を作成したのは理解できるが、欧州委員会にソロス計画なるものは存在しないし、作業部会でもそのようなものは存在しない」と語った。また、自由選挙後のアンタル内閣時( 1990-1994年)に外務大臣を務め、第一次オルバン内閣でアメリカ大使( 1998-2002年)を務めたヤセンスキー( Jeszenszky G.za)は、「このような質問票は国民を見下した政治的キャンペーン」と批判した。 CEU廃校工作 |
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ソロス=ユンケル陰謀批判ポスター「ブリュッセルの企みを、国民は知る権利がある」 | |||||||||||||||||||||
各家庭に郵送されたリーフレットには、 7点の「企み」が記されている。ソロスとユンケルは、①強制割当を導入しようとしている、②加盟国の国境管理の権限を弱めようとしている、③移民ビザを発行させて移民の流入を簡便化させようとしている、④移民を支援する組織にさらに資金を提供しようとしている、⑤900万 Ft分の銀行カードを渡して移民の定着を助けようとしている。⑥アフリカ諸国からの実験的移民プロジェクトを始めようとしている、⑦移民を監視する諸国への資金的援助を減らそうとしている。 ユンケル委員長は FIDESZも属する欧州議会の人民党グループから選出された政治家である。この新たな反 EUキャンペーンにたいし、欧州人民党グループに所属する各国の諸政党 9党が、FIDESZを批判し、会派からの除名を要求した。これにたいし、欧州人民党の議員団長マンフレッド・ウェーバーは、 FIDESZにたいして、欧州人民党グループ残留の条件として、以下の三つの条件を提示した。 一つは、ブリュッセル( EU)にたいする政治的非難キャンペーンを止めること。 二つは、人民党グループを構成する兄弟政党とユンケル氏へ謝罪すること。 三つは、 CEUをブダペストに残すこと。 これらの要求にたいして、 FIDESZ政権幹部は譲歩する姿勢を示していない。ウェーバー議員団長は急遽、 3月 12日にブダペストを訪問し、オルバン首相と会談した。この会談に先立ち、ウェーバー氏は CEUへ直行し、大学幹部と話し合いをもった。学問・研究の自由の観点から、人民党グループとって CEU問題は看過できないという理由からである。ウェーバー氏は上記の三要求をオルバン首相に迫ったが、明確な回答は得られなかったようだ。 その後、 3月 20日に開かれた欧州人民党グループの会議で FIDESZの資格停止提案が、 190対 3の圧倒的多数で可決された。即時除名でなく、資格停止で欧州人民党指導部と FIDESZとの間で妥協が成立した。欧州人民党は 3名の賢人会議を立ち上げ、 FIDESZ問題に対処することになった。欧州人民党指導部はグループ内で 14議席を保有している FIDESZを簡単に切り捨てるわけにはいかず、他方で会派除名によってポピュリストの小会派へ移ることが余儀なくされることは FIDESZの本意ではない。というのも、 FIDESZ執行部はポピュリスト政党と呼ばれることを極端に嫌っているからである。両者の政治的駆け引きは欧州議会選後まで続く見通しである。 |
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(もりた・つねお) |