男子テニスも女子テニスも、俄然面白くなってきた。女子は四大大会の優勝者がすべて異なったように、上位選手の争いが熾烈である。他方、男子の4強状態は変わらないが、ナダル時代到来かと思ったら、2011年はジョコヴィッチがダントツの強さをみせた。2011年10月末の時点で最後まで戦って負けた相手がフェデラーと錦織圭の二人だけ。ところが、この後ジョコヴィッチは背筋の故障で調子が悪く、8人で争う11月末のATPファイナルでは2敗して敗退し、フェデラーが163万ドルの無敗優勝賞金をかっさらった。ジョコヴィッチとマリーが故障、ナダルが不調で、けがに強いフェデラーが若い3人の前に立ちはだかるという構図になっている。また、これだけのパワーテニス時代に日本人が分け入る隙はないと思っていたが、小柄な錦織が活躍しているのがうれしい。2012年はトップテン入りを果たしてもらいたいものだ。

フェデラーはなぜ強い
 それにしてもフェデラーの強さはどこにあるのだろうか。彼のプレーを野球のピッチャーに例えると、直球が150km前後で球種がきわめ多彩でコントロールが良く、簡単に打てない(勝てない)というところだろうか。ナダルの場合は、直球にそれほどの威力はないが、高速スライダーのコントロールが抜群によい。マリーとジョコヴィッチはよく似ているが、双方とも直球は155km前後と速く、球種の多彩さはないが配給ミスが少ない。
 すべてのボールゲームと同じで、テニスの球種もボールの回転による変化だ。前回転するスピン系、後回転するスライス系、無回転のフラット系をフォアハンドとバックハンドで打ち分けながら、クロス、逆クロス、ストレートの三コースにコントロールする。野球のように横回転(シュート系とカーブ系)を通常の体勢で打つことはないが、追い込まれて極端な変化をつけなければないケースでは、スピンに横回転を付けて打つことがある。
 フェデラーは一球ごとに違った球種で返球する。スピン系一本やりのナダルと好対照だ。力戦型ナダルの肘と膝に負担がかかり、力で押すマリーとジョコヴィッチは肩や肘の故障を抱えている。それにたいして、フェデラーには大きな故障がない。それは打法の合理性と球種の多彩さが無用な力を節約してくれるからだ。長期にわたってトップに君臨できる理由である。
 2012年の男子テニスがどう展開するのか想像もつかない。マリーやジョコヴィッチの故障が長引けば、再びフェデラーがトップの座を奪うことも予想される。ナダルは球足の遅い全仏オープンを照準に戻ってくるだろうが、球足の速い全豪とウィンブルドンの行方が興味深い。
 2008年に衝撃的デビューを果たした錦織が肘の故障から復帰し、2011年のトップランク10人のうち、5人に勝利したから実力は本物だ。錦織は非常にクレバーで勝負強い。これはたいへん大切な要素だが、難点は体力が続かないこと。今の体力ではグランドスラム大会で4回戦以上に勝ち上がることが難しい。それが課題だ。

伊達はどうなる
 2010年はまさに伊達イヤーだった。トップテン前後の選手が皆、伊達の餌食になった。伊達は左利きだったから、両手打ちのバックハンドは威力があるし角度もあるが、フォアハンドはほとんどフラットに合わせるだけ。ライジングを打つので、相手の打球の勢いを利用できるという利点はあるが、タイミングの変則性以外に威力はない。パワーテニス全開の時代にまったく不釣り合いなテニスなのだ。ところが、この変則テニスが上位選手に有効だった。
 伊達と初めて対戦した選手はみな戸惑った。サービスも打球も緩いので、力で抑えつけようとする。ところが、しつこく返球されるので、向きになってさらに力づくになる。こうなると、伊達の思うつぼで、相手のプレーが雑になる。こうして、力で抑えつけてくる上位選手は、皆、伊達の前に自滅してしまった。
 ところが、2011年の伊達はほとんどのWTAトーナメントで1回戦負けし、ランキングも急落してしまった。相手にじっくり見られてしまったからである。初対戦で戸惑い自滅した上位選手たちは、落ち着いて処理すればなんともない相手だということが分かってきた。こうなると、伊達にはきつい。相手をじらす心理戦にもっていけない。いまさらパワーをつけるトレーニングでもないだろうから、2012年も伊達には厳しい戦いが待っている。
 1991年のデビュー戦。ロスアンジェルスのヴァージニアスリム予選から決勝まで勝ち上がり、セレシュ・モニカと対戦したのを偶然にテレビで観戦した。女子テニス界に君臨するセレシュと対戦している日本選手がいるのに驚いたのを覚えている。その彼女が昔のテニスで現代のパワーテニスと戦っている。タイムスリップの夢をみさせてくれる伊達に感謝したい。

女子はクヴィトヴァ時代到来か
 2011年のウィンブルドンを制し、年末のWTAファイナルを制したチェコのクヴィトヴァはランキング2位で2011年を終えた。大きな体躯に似合わず、ストローク、フォア、バックともに安定していて、両手でスライスを打つなど器用なところもある。しかし、何と言っても最大の武器はサーブだ。185cmはあろうかと思われる上背のサウスポーから繰り出される速いサーブは女子選手には厳しい。同じくチェコ出身で一時代を築いたナブラティローヴァのような男性的プレースタイルだが、体もプレーも一回り大きい。大器として大成する素質をもっている。
 今のところ、彼女に真正面から対抗できそうなのは、ベラルーシのアザレンカ。やはり、180cmを超える体躯だが、彼女はストロークプレーヤー。シャラポワのように、ロシア系の選手はメンタル面で弱いという印象が強いが、アザレンカは勝負強く、ストローク戦で自分から自滅することはない。
 この二人にたいして、ランキング1位のヴォズニアキの影は薄い。いまだグランドスラムのタイトルがなく、アザレンカとよく似たタイプだが、アザレンカほどの勝負強さがない。2012年にも彼女がトップランクであり続けることはできないだろう。

(もりた・つねお)