しかし、異文化間コミュニケーション教育には、理論学習とともに、実践学習が欠かせない。実社会で起こりうる状況のシミュレーションをさせ、他者と協力しつつ、大学で学習した理論を踏まえ、自分で問題を解決するプロセスを学ぶことが重要である。そこで、日本の大学生とハンガリー人の大学生の混成チームを作り、選んだテーマについて協働研究作業とその成果の発表をさせるという試みを2005−2006年度から開始した。この中で、2006年は立命館大学経済学部の学生12名が2週間ハンガリーに、2007年はブダペスト商科大学の学生10名が2週間日本に滞在し、相互の大学で世界遺産と環境問題に関する学習と研究を行った。また、2007年度からは城西大学の学生達もブダペスト商科大学に短期留学し、同様な協働学習をしている。マルチナショナルなチームの中で課題達成のために協働で作業をすることは、言葉や表現の問題もさることながら、作業の進め方、議論の仕方など、お互いの文化の違いを克服しなければ成果に結びつかない。学生時代にこのような協働学習を体験することは貴重である。特に日本へ留学できない学生にとっては、このような機会はまたとない貴重な経験となる。
ブダペスト商科大学の学生には、卒業前に3ヶ月間、インターンシップと呼ばれる職場体験が義務付けられている。対象言語の文化を一番よく理解できるのが、この職場体験である。大学の講義で学習した理論を実際に検証できる貴重な場であり、卒業後の人生にとって大きな転機となることもある。これまではハンガリー国内の多国籍企業や日系企業・機関、あるいはヨーロッパの企業でインターンシップをすることが多かった。しかし、数年前から日本でインターンシップを行う学生も出てきた。昨年の秋に東京の港区役所で3ヶ月間のインターンシップを経験した学生は、帰国後、興奮冷めやらぬ状態で報告に来てくれた。
ブダペスト商科大学で日本語教育が始まって、今年でちょうど25年を迎える。ハンガリーの日本語教育を取り巻く環境は、当時に比べて大きく変化した。学習者人口も飛躍的に増え、国際交流基金の調査では教育機関で学ぶ学習者は1400名を超えた。通信教育の教材はすでに2500部を売り上げたそうである。商科大学でも、学習者数はここ10年、50名前後で推移しており、日系企業への就職者や日本への留学者も多い。日本では、多文化共生を目指す日本語教育が叫ばれているが、EUに加盟したハンガリーでは、『外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ共通参照枠』の日本語教育への導入が課題となっている。時代によって課題は異なるが、結局のところ、日本語教育は、「人育て」である。世界のどこにいても、どんな文化的背景を持つ人間に対してでも、先入観や偏見を捨て、互いに背を向けることなく対話を続けていくための技能と忍耐、意欲を養うことだと思う。
ハンガリー国内はもとより世界中で活躍する卒業生に地下鉄や飛行機の中、空港でバッタリ出会い、話がはずむことも珍しくない。よく考えてみると、私達のほうが学生や卒業生に元気をもらっているようである。 |