「今日も学校に行くの?まだ、眠たいよ。」という声が聞こえてきそうな土曜日の朝、みどりの丘補習校には多くの二重国籍の子ども達がやってきます。
 補習校では、年間約35日、毎週土曜日の9時から12時半まで国語を4時間勉強しています。現地校は6月半ばで夏休みに突入しますが、補習校は6月末まで続きます。ここ最近は小学部1年生の入学者が10名近くに増えてきており、平成30年度には児童生徒数が50名以上になる予定です。1年生の学習を始める子の大半はまだ現地の幼稚園に通っているため、4月はまず日本的な学習習慣を身につけることから始まります。低学年のうちは意気揚々と登校してくる子ども達も、学年が上がるにつれて眠気眼をこすりながら登校するという姿に変わって行きます。ようやく1週間の現地校が終わった金曜日の夜にも補習校の宿題と格闘したり、遠距離通学の車中で音読テストや漢字テストの練習をしたりするという子どももいます。週6日目となる土曜日の勉強は想像以上に大変で、特に高学年では、現地校との両立が何よりの課題となってきます。
 「お父さん(お母さん)が日本人なの?いいわねえ。二つの言語を話すことができて。羨ましいなあ」。周りから見ると、二重国籍の子ども達はそのように映るのでしょう。実際、補習校の中学部を卒業する子ども達の多くは、しっかりと国語力を身につけて卒業していきます。一概に「国語力」と言ってもその幅は広く、話す力、書く力、聞く力、日本語を使ってコミュニケーションができる力、日本語で思考する力と多岐に渡ります。平日は現地校での学習に加え、宿題やプロジェクトなどに追われながらも補習校の宿題やテスト勉強にも取り組み、さらに毎土曜日午前中に補習校での国語学習を継続しているこの子ども達だからこそ、「羨ましいなあ」と言われるに値するのではないかと強く感じます。生まれ持った二重国籍というステータスだけでは、日本でよくもてはやされるようなバイリンガルにはなれないからです。
 このような子ども達の並々ならぬ努力の陰には、保護者の存在があります。宿題のサポート、土曜日の送迎、補習校での様々な係りなどを請け負い、協力を惜しまない方がたくさんいらっしゃいます。日本人ではない保護者も様々な形で支援されており、両親が一丸となって子どもの教育に携わる姿が見られるのは、補習校の特徴かもしれません。
 さらに、みどりの丘補習校では、国語の学習と並行して、その背景となる日本文化についても学んでいます。入学式や卒業式といった儀式や遠足や学習発表会といった行事を通して日本体験をします。言語は文化の一つに過ぎません。日本とは何ぞや、日本人とはどんな人、日本の考え方とはどんなものかといった日本を理解するための体験を通して、バイリンガルになっていくのではないでしょうか。日本では常識として扱われることも、一旦外国へ出ると非常識となることもあります。そのような文化の違いを理解しようとしてこそ、ようやく言語を操れるようになっていくのではないかと思うのです。
 補習校に通う子ども達は、自分がバイリンガルになって羨望の眼差しを向けられるためではなく、時には喜んだり、時には苦しんだりしながらも自分に与えられたチャンスとして受け止めてがんばっているように私には映ります。そんな子どもの親として、補習校運営委員の一人として、残り1年となりましたが、子ども達のサポートに尽力したいと思っています。

(さかい・けいこ みどりの丘補習校運営委員)