私は日本の学校に行ったことがない。父の仕事の都合で幼稚園を卒業する前にイギリスに住むことになり、小学校に入る前からブリティッシュスクールに通い、その後も数カ国を転々とし、その都度、違った国のブリティッシュスクールに通ってきた。だから、もうかれこれブリティッシュスクールでの経験は10数年になるが、いまだに戸惑いを隠せない部分や、日本にいる旧友と話をしているとかみ合わない所が多くある。その中でも一番日本と違い、戸惑うであろう(私もいまだに戸惑う)システムが、GCSEというイギリス独自のシステムである。そこで、これがどういうものなのかを説明したい。

高等部4名。右端が畑山君、その隣が望月君

 このGCSEとは、General Certificate of Secondary Educationの略で、イギリスの16歳までの義務教育機関を修了した事を証明する、イギリスでは最も一般的な証明書だ。一般的には16歳、もしくはYear11の終わりにセンター試験のような全国統一の試験があり、その試験の結果によってGCSEのグレードが決まる。グレードはU、G、F、E、D、C、B、A、A*と続き、A*が一番よくGがグレードとしては一番悪い。UはUngradableの略でGCSEのグレードがもらえないことを意味する。
 そして多くの人が戸惑うのが、この試験のGCSEグレードで、多少の例外はあるが、試験の結果であるグレードのみが成績として考慮されることだ。たとえば、学校にずっと行かず試験のみを受けた人でも、試験の結果(グレード)が同じなら学校に皆勤した人と成績が同じということだ。

 それに加えて、GCSEの特色として、教科書の代わりにSyllabusがあることだ。これはセンターが指定する、GCSE受験のために学習すべき事柄のリストのようなもので、先生たちはこれに沿って授業をする。先生たちは基本的に教科書を使わず、このSyllabusをもとにして授業を作り上げ、生徒たちにSyllabusを叩き込む。身も蓋もない言い方をすると、テストに出る事柄のリスト、いわゆる「範囲」のようなものかもしれない。だから、このsyllabusを知っていないと、統一試験でいい成績を残すことはできない。そして、このSyllabusは14-16歳(Year10~Year11)の2年間で終えるのが一般的で、この2年の間は先生も変わらないしクラスメイトも変わらない。長い「1年」のようにも感じる。
 この2年間が終わると、最後にテストがある。この全国統一試験の前は学校全体が異様にピリピリとした空気に包まれる。なぜなら、前述したように、2年間の勉強がこの1時間から2時間のテストの結果によっては、無駄になるかもしれないからだ。

 そしてもうひとつ、GCSEのグレードはイギリスの大学に入るのに重要なことだ。これもイギリス独自のシステムなのだが、イギリスの大学に申し込む時、生徒はまだIBやA-Levelのような大学入学のために必須な高等教育コースを修了していない。したがって、その生徒が在学する学校は大学側に対して、この生徒はIBもしくはA-levelでどの様なグレードを取れるかという「見込み」を送る。日本の例で言えば、内申書を送るようなものだ。それで大学の合否が決まってしまうと、学校側はグレードでも捏造できるため、その「見込み」に信憑性を持たせるために必須なのがGCSEのグレードである。もちろん、GCSEでCを取った生徒がA-levelでA*を取ることは不可能ではないが、GCSEでA*を取った生徒と比べると大学の書類面接で落とされる可能性が高くなる。だから、前述した通り先生たちは生徒たちにいい成績を残してもらいたいと願っている。

 私は今まさにGCSEを終えようとしている。私はYear11を終えるまであと3ヶ月ちょっとで、もう終わりまで秒読みというところまで来ている。この時期の学校の雰囲気は、既述したどおり、ピリピリとした異様な感じになる。ここまで来ると、授業は基本的に復習のみで、宿題も過去年度のテストを繰り返しやらされる。そして、GCSEがどれほど大変で重要なのかなどを全科目の先生から耳にたこができるくらい聞かされる。私はブリティッシュスクールに人生の半分以上通っているが、こんなことは初めてだった。前の学年までテストはあったものの、あくまで学校内部で作成されて学校内部で採点されるものである。採点している人は私のことを知っているし、私も採点している人を知っているから、融通が利いた。悪く言えば井の中の蛙、ぬるま湯に浸かっていたに過ぎない。競争相手はクラスメイトだけだったからだ。しかし、GCSEは違う。競争相手はこの同じテスト受けている全員。そして今の競争的な社会そのものだと思う。世界的にみると大学進学率平均が60%超えていて、そしてそれが右肩上がりだとことを考えると、今の学生たちはどれだけの競争を強いられるか分かるだろう。より多くの学生たちが競争をし合えるから、私はGCSEを素晴らしい制度だと思う。

(はたやま・さらい)