2014年を振り返って
2014年は私のキャリアにとっても、画期的な年になりました。コチシュ・ゾルターン率いるハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団の日本ツアーにソリストとして参加し、憧れのマエストロ・コチシュ指揮のもとでコンサートを行えたことは、大きな財産になりました。マエストロ・コチシュのCDを聴き、ピアノを勉強したいと思った幼年時代のことがまるで夢のようです。日ごろの練習が厳しいことで知られるマエストロですが、リハーサルでは温かく接していただき、「僕ならここはこう弾くんだが」というようなアドヴァイスをいただき、たいへん参考になりました。 それから早くも半年が経ちました。マエストロ・コチシュをはじめ団員の皆さんと一緒に過ごした時間、リストの音楽に燃えた公演全てが、私に再びハンガリー人魂が蘇るような感動を与えてくれました。その蘇った魂のおかげか、秋にはもう一つ自分のハンガリアン・アイデンティティを意識する出来事が起きました。それは、人生二度目のリスト音楽院への受験でした。
2014年の春に東京音楽大学大学院を修了し、次のステップである博士号(DLA,DMA, PhD)取得への進学を考えました。音楽的活動と両立する環境を考え、最初は東京、ロンドン、ニューヨークのいずれかの音楽院への挑戦を考えました。しかし、演奏活動への理解の壁、演奏博士課や研究博士課の縛りが多いカリキュラムの問題に直面し、どちらも断念せざるを得ませんでした。そこで、志望校としてリスト音楽院が候補に浮上してきました。リスト音楽院は11歳から16歳まで「特別才能クラス」に在籍した、私の母校でもあります。 前々からフランツ・リストに関連する事柄を研究したいと思っていたので、リスト研究の本場であるハンガリー、そしてリストが創立者の音楽院へ進学することは、自分にとって自然なことと思うようになりました。申込み書類を提出した後、研究計画書の提出、ピアノの技術試験、面接試験、筆記試験と続き、受験そのものは極一般的な流れでしたが、久しぶりに受けるハンガリー語の面接や筆記試験はかなり緊張しました。ハンガリアン魂のおかげで、全ての試験を無事合格しました。ということで、今回は博士課程といった特殊な環境ではありますが、8年振りにリスト音楽院に在籍することになりました。 すでに日本とハンガリーを適宜往復しながら、リストの楽譜等の研究作業を始めています。これから、博士課程カリキュラムをこなしながら、日本と外国での演奏活動をどのように並行して進めて行くのかが、当面の挑戦になります。
2015年の予定
2015年5月に、マエストロ・小林指揮のMAV交響楽団と共演することが決まっています。ハンガリーで久しぶりに本格的なコンサートの舞台に立たせていただきます。それも、尊敬する小林研一郎先生との夢の共演とは本当に嬉しく、光栄に思います。5月5日はZeneakademia、5月7日はMUPAにてMAV交響楽団とチャイコフスキー:ピアノ協奏曲変ロ短調を演奏します。(なお、同じプログラムは5月4日にミシュコルツ、5月8日にペーチで演奏されますが、地方都市のコンサートではFarkas Gábor(ファルカシュ・ガーボル)がソリストとして共演します。) 実はこの曲、マエストロとの思い出の作品なのです。2009年、当時19歳の私が日本で初めてマエストロとご一緒させていただいた時の作品です。東京国際フォーラムと大阪国際会議場にて、この協奏曲を弾かせていただきました。マエストロからの貴重なアドヴァイスをいただきながら、その後も日本国内で何度か演奏してきました。そして、昨年(2013年)ロンドン・アビーロードスタジオにて、マエストロの指揮でロンドンフィルとの夢のような共演が実現し、この作品のCDをレコーディングさせていただきました(2013 Exton Octavia Records)。 くるみ割り人形や白鳥の湖と同じほど有名なピアノ協奏曲ですが、ロマン派時代の感情的な構成でありながら、チャイコフスキーならではの率直な音楽性が大きな特徴です。その率直さがあるからこそ、弾く側の人間も、聴く側の人間もストレートに音楽を理解し、誰でも気軽に楽しむ事ができる名曲になっています。 今回この思い出の曲を、僕のもう一つのふるさとであるハンガリーで皆様に披露できる事を今からワクワクしながら心待ちしています。マエストロの熱い指揮とハンガリーのオーケストラとの特別なチャイコフスキーを、是非お楽しみください。なお、コンサートプログラムの後半は、ムソルグスキー(ラヴェル編曲)「展覧会の絵」になります。 このコンサートへの出演の機会を通して、リスト音楽院でも博士課程に必要な研究を進めていきます。このような形でコンサートと博士課程の勉学が並行して行えることが、私にとって大変ありがたい環境です。
さて、最近のことですが、縁があって、2ヶ月程前から池坊いけばなの教室に通いはじめました。日本の伝統文化であるいけばなは想像以上に奥が深く、意外な所で音楽や芸術との共通点を発見しています。そういう視点からも、習い事の一つとして、続けていく予定でいます。
|