私はもうとっくの昔に留学生ではなくなってしまったのですが、原稿を書いてみないかとお誘いいただき、久しぶりに昔の記憶をたどることになりました。
 2000年4月、大阪外国語大学(現大阪大学)ハンガリー語科3年生を終えた後、休学して1年間ハンガリーに来ました。優等生でもなんでもなかった私は奨学金も受けられず、親のすねをかじりながら語学学校に通っていました。毎日午前中だけ授業があり、午後はうちで勉強したり、ブダペストのいろんな場所を見て回ったり、友達と会ったりして過ごしました。何をやっても「勉強」になったので、毎日がとてもおもしろかったです。
 ルームメイトは日本人でしたが、ハンガリー滞在歴が長い人だったので、家の中では日本語禁止にさせてもらっていました。外で会うときは日本語OKで、一緒に家を出たとたん「さっきのあれ、どういう意味?」と質問攻め。今思うと日本人2人のハンガリー語会話は滑稽ですが、あの時は真剣でした。

 留学の後、いったん日本に帰って卒業し、紆余曲折を経て現在はELTE大学の日本学科で日本語を教えています。3年がたちましたが、まだまだ本当に試行錯誤の日々です。でも、学生たちは非常に熱心かつ優秀でこちらが学ばされることも多く、この仕事に就けたことをとても幸せに思っています。
 この場を借りて宣伝させていただきたいのですが、私たちは「ニハハ・クラブ」という、日本人とハンガリー人の交流会のようなことをしています。不定期にしか行っていませんが、よかったら遊びにいらしてください。http://nihahaclub.exblog.jp/
 また、昔からの夢に「絵本に関わる仕事をする」というものがありました。ハンガリー語と結びつけ、留学後、ハンガリーの児童書の翻訳を始めました。「こつこつ訳し続けて、おばあちゃんになってからでもいいから、いつか出版に至ったら嬉しいなぁ〜」と思っていたのですが、ハンガリーには実はすばらしい本がたくさんあり、これまでに「犬のラブダとまあるい花(原題Labdarozsa、冨山房インターナショナル)」「とんぼの島のいたずら子やぎ(原題A szitakot?k szigeten、偕成社)」「ふたごのベルとバル(原題Bertalan es Barnabas、のら書店)」の3冊を世に出していただくことができました。特に「とんぼの〜」はつい最近、厚生労働省関連の「児童福祉文化賞特別推薦」という賞をいただき(同賞を「崖の上のポニョ」も受賞)、単に「未知の国ハンガリーの絵本」という位置づけではなく内容をちゃんと見ていただいた上での受賞ということで大変嬉しかったです。
 もともと、ハンガリーという国は実は自分で選んだわけではありませんでした。でもこの国には夢をかなえさせてもらい、それ以上の経験までさせてもらっています。「せっかく勉強しているんだから、一度見てきたらどうだ」と留学に送り出してくれた両親には感謝の思いがとても言い尽くせません。今後も自分の出来ることを精一杯やっていこうと思っています。