今年4月「みどりの丘日本語補習校」に新1年生が8名入学し、にぎやかな新年度がスタートしました。日本とハンガリーの二重国籍を持つ子ども達が増え、日本語を母語として学ばせたいと考える家庭が多くなっているように感じています。今の補習校が立ち上がる年に入学した息子は、今年で5年生になりました。ハンガリーの現地校と補習校に通う息子の日本語学習の様子を知っていただき、一緒に考えていただけたりしたら二重国籍の子を持つ保護者としてうれしく思います。

有り難い補習校
 我が家の長男は、毎週土曜日の午前中、補習校で国語の授業を受けています。今年は他の2名のクラスメイトと5年生の教科書を中心に年間の課程をすすめています。1年生の時から教科書を使って学習しているので自分の子が今どんな段階を学んでいるのか、どんな力をつけていくべきなのか、わかり易く私たちにはよい指針となっています。また先生という第3者が愛情を持ちつつ客観的に指導してくださるのは、本当にありがたいです(親が教えるとつい感情が先走ってしまうので)。教科の学習以外にも日本やハンガリーの行事、日本の歌や遊びに触れてもらうことが多いです。私も息子の話を聞いて懐かしい日本の行事を思い出したり習ってきた歌を一緒に歌ったりして楽しんでいます。
 息子はバスなどを乗り継いで、補習校に一人で通っています。そのために親の代わりに先生や他の保護者の方たちとやりとりをすることになります。普段は親以外の日本の大人と接することが少ない彼にとって、敬語や丁寧語を使うとても良い機会になっています。補習校は保護者の運営する学校なので親(特に運営委員の方々)がやるべきことが多くて大変です。しかし、補習校がなかったら息子は日本語の学習を今まで続けていなかったでしょう。

宿 題
 家庭での読み書きの学習は補習校の宿題です。漢字練習や作文などバランスよく出されているので宿題以外に独自の問題集をやることなどはあまりありません。我が家では宿題を終わらせないとその週は補習校にいけないということになっているので、補習校が大好きな息子は懸命に毎日取り組んでいます。
 低学年のうちは、読むことを学ぶ段階なので親がつきっきりでした。私は家事がすすまずイライラし、息子は泣き出し、ハンガリー人の夫はなぜそんなに勉強しなければならないのか戸惑っていました。もっと寛大な気持ちで見てあげられたら良かったのにと悔やんでいます。苦しかった当初に比べると、ここ1年ほどは親子ともにずっと楽になってきました。自分で一週間の宿題の量を確認し、週や1日の計画を立ててから辞書などを使って一人ですすめられるようになったためです。学ぶために読むという段階になり、毎日の宿題で学習が習慣化され、年齢が上がって集中力がついてきたのでしょう。低学年のお子さんがいて自宅学習が大変な保護者の方には、「いまが一番親の時間を費す時です、やさしく見守ってあげてください」とお伝えしたいです。

会 話
 家での息子との会話は両親のそれぞれの母語(母は日本語、父はハンガリー語)で行っています。息子との会話はおしゃべりな父親が帰ってくるまでの数時間が勝負です。日本語の中にはハンガリー語は混ぜないようして、単語が入ってしまったときはさりげなく聞き直し、それが何であるか説明させて日本語での表現方法を教えています。「(学校、習い事など)どうだったか」と聞いても答えが返ってこないので、「今日は何が一番楽しかったか」と聞くようにしています。楽しかったことや褒められたことは話したがるので、こう聞くと授業や友だちについて話してくれるます。学校生活の中でハンガリー語でしか知らなかった言葉を日本語で説明させて、語彙や表現方法を増やしています。

活 字
 教科書の音読は毎日がんばっている息子ですが、宿題以外では日本語の活字を目にしない(読書の面白さがまだわからないのです)ので、なにか読んでもらいたいなぁと思っていました。以前、二重国籍のお子さんを持つ先輩お母さまの講演会で「日本語に触れるためなら、まんがも読ませていた」とお聴きし手始めに「ドラえもん」を取り寄せました。まんがはおもしろいらしく「ドラえもん」の他にも次々と読みたがるようになりました。帰国時に手に入れるだけでは足りず、今はブダペストの「国際交流基金」や「日本人学校の図書館」を利用しています。

書 く
 日本語の学習のなかで一番難しいのが文章を書くことです。宿題でも作文を書くときには取り掛かるまでに時間がかかります。家庭では親子で交換日記や毎晩の食事を書き出すなどいろいろ試してみましたが、今続けているのは、日本のおばあちゃんやいとこに手紙を書くことです。返事が来るのがうれしいので、せっせと(それでも月に数通)書いています。文章の練習にもなるし、おばあちゃん孝行もできるので一石二鳥です。

映 像
 息子の一番の楽しみは、宿題を終えた後にDVDを観ることです。家にはテレビはありません。DVDだと親が見せたいものを選ぶことができるので、このままでいいかなと思っています。日本のテレビ番組を録画したものや映画を観ていますが、ここからも弁護士ドラマでは法律言語、料理番組では調理に関する言葉などを覚えています。家庭では日常会話から一歩進んだ話題をさがすことはなかなか難しいのですが、DVDを観た後はさまざまな内容について話すこともできます。「干物女」など知らなくてもいい言葉まで覚えたりもしますが、親子で楽しめバラエティに富んだ日本語に接することが出来るので、DVDの視聴は欠かせない娯楽のひとつになっています。

 各家庭によって日本語学習の状況や目指すところはさまざまだと思います。この原稿を書きながら、我が家にとって、補習校での体系的な学習と宿題と、家庭の中に楽しい日本語環境を作ることでうまくバランスがとれているように思いました。二つの国の言葉や文化で育つことがハンディでなく豊かな人生の助けになると良いなと願っています。ハンガリー人であり、日本人であるという意識を持って育ってくれたらうれしいです。