12月。一年を通じて最も大きな変化が起こる時期である。摩訶不思議な雰囲気が生まれ展開する。クリスマスが近づいて来ているこの時期に合わせ、クリスマスに関する行事を紹介したいと思う。
 キリスト教が広く流布しているヨーロッパでは、クリスマスは遠い昔から一年で一番大切な祭りとされている。イエスの誕生日をお祝いするキリスト教の人たちにとって中心になるのは家族である。イエスと聖母マリア、養父ヨセフの3人からなる家族の象徴に基づいて、クリスマスの時は家族と一緒に過ごすという習慣が出来た。
 アドベントは11月30日の「聖アンデレの日」に最も近い日曜日からクリスマスイブまでの約4週間を指す。この言葉は「到来」を意味するラテン語Adventusから来たもので、「キリストの到来」のことである。最初のアドベントを待降節第一主日、もしくは降臨節第一主日と呼び、その後に第二、第三、第四と主日が続く。アドベントには、蝋燭を4本用意し、第一主日に1本目のろうそくに火をともし、第二、第三、第四と週を重ねる毎に火をともす蝋燭を増やしていくという習慣がある。通常、蝋燭の色は、悔い改めを表す紫だが、第三週のみ白またはピンクの蝋燭を用いる場合が多い。この点においてはイエスの誕生を待つという意味も含まれている。
 ハンガリーでは中世時代、ドイツから移住させられたドイツ人(ドイツ語でUngarndeutschen、ハンガリー語でmagyarországinémetek 或いはsvábok)による習慣や信仰がキリスト教と交わり、現在でも多様な習慣が生き残っている。私が育ったKislôdという村でもシュヴァーブが多く、色々な習慣が今も伝えられている。村では12月24日に特別な飾り付きの衣装を着た5人の女の子が早朝から午前零時のミサ迄に村にあるすべての家を訪ね歩き、そこでドイツ(シュヴァーブ)語で挨拶をしたり、歌を歌ったり、お祈りをしたりする。一人の女の子は揺りかごの中で眠るイエスの人形を持つことで聖母マリアを象徴し、他の4人は天使たちを意味している。そのうちの一人は手に持った鈴を振り、その音でイエスの到来を人々に気づかせながら、各家の門前で次のように歌い始める。

“Ich bin ein Bot vom Himmel,私は天から来た大使(天使)だ
Die Wahrheit euch zu bringen.あなた方に正義を与えるために
Gott hat euch zu Mitternacht,真夜中に神があなた方に
Eine große Freud gemacht.大いなる幸運を作ってくれた
Damit ihr mir ’s erlaubet,私の使命は
sollt ihr mir ‘s auch glauben.あなた方に私のことを信じさせること
Ich und noch vier Engelein,私とあとの四人も天使であるゆえ
Wir wollen kommen zu euch herein.”あなた方のところを訪れたい

門が開かれ、子供たちが家に入り、次のように告げる。

“ Um euch das Kind zu zeigen und euch erweisen ,幼子イエスを証明すべくあなた方に見せ、
ihr Engelein eilet geschwind und euere Lichte anzünd !彼の天使たちはあなた方に光を授けに急ぐ
Damit mit uns ein jeder Christこれで全てのキリスト教徒は彼の栄光を
kann sehen was geschehen ist.”目の当たりにすることが出来る。

二人の天使は蝋燭に火をつけ、次の祈りをする。

„Jetzt sind wir schon gekommen an.我々は既に辿り着いた。
Jetzt zünden wir unsere Lichte an.我々の光を授けるために。
Gelobet sein Herr Jesu Christ,イエス・キリストがほめたたえられ
der vom Himmel gekommen ist彼は天から来たる。
und der im Stall geboren ist,厩で生まれた。
Alle -, alle-, alleluja!アレ、アレ、アレルヤ。
Um euch das Kind zu zeigen und euch erweisen,幼子イエスをあなた方に
Maria mein, komm du herein,bring uns das liebe Jesulein! “マリア、幼子イエスを連れ来たれ
Oh, Christkind mein, komm auch herein wieg uns das liebe Jesulein!”クリスキンドも入り幼子イエスをあやせよ。

聖母マリアは家に入り、そこで揺り篭に眠っている幼子イエスをあやしている。そしてイエスの人形を机の上に置く。

„Freut euch ihr liebe Engelein,優しい天使たち、私はとても嬉しい。
euch bring‘ ich mein zartes Jesulein私の弱きイエスを連れ来た
Drum lobet und preiset ja jeder Christ,全てのキリスト教徒は主、キリストの誕生
weil Christus, der Herr geboren ist.をほめたたえ賞讃する。
So komm herein, oh Christkindl mein,故に、入れよ。私のクリスキンド。
vom Gott soll dir ‘s erlaubet sein.“神はあなた方にその使命を与えた。

そして天使たちが次の歌を歌い始める。

Schau, ob die Kinder alle fleißig beten und gehorsam sein !見よ、子供たち皆が懸命に祈り、素直なことを
Wenn sie alle fleißig beten und gehorsam sein,もし皆が一生懸命祈り、素直でいたら、
werden wir ihnen ein schönes G’schenknis bringen.素敵な贈りものを持って来よう。
wenn sie aber nicht alle fleißig beten ung gehorsam sien,しかし皆が一生懸命祈らず素直でないなら
werden wir ihnen eine große Rute bringen !”我々は長い小枝を持って来よう。

最後の一人(クリスキンド)は綺麗な飾り付の一本の小枝を手にし、訪問を受けた家人の肩を優しく叩き、邪悪や悪魔を祓うために歌う。

Das Jesukind soll gesegnet sein, ganz nacket und bloß.罪のない無垢なイエスは祝福された
In dem Modökodös ihrem Schoß.マリアのひざの上で
Es geht ein Bot‘ in der Still‘,静寂の中、ひとりの大使が訪れる
als ihm ein Traum überfiel.夢を叶えるために。
Er hört die Engelein singen,天使たちの歌を聴いて、
sie führen ihn nach Betlehem,ベツレヘムへ導かれた
nach Betlehem wohl in den Stall,ベツレヘムの厩で元気に
wo das Jesukind geboren war.神の子として生まれた

 天使たちは子供に贈り物を渡し、家を立ち去る時には家人に“メリークリスマス”と願い、家人は彼らに” Vergelt’s Gott(” 神のご加護をという挨拶)でお別れする。私の住む村ではこの行事に参加する子供たちは全員女の子であった。最初に紹介の歌を歌う女の子は小さな人形を持ち先導者を表している。昔は皆、自分で作った白衣を身につけ飾っていた。リボンや珠を付け、冠も被るが、主に使われる色は赤、黄、青の三色である。現在ではもう自分で作ることはなく、翌年この行事の担当になる人に受け渡していくことになっている。12月22日から24日まで村を回るが、神父の家から出発し、聖夜のミサで終わる。教会の祭壇に、この3日間で貰ったお金の入った箱を置き、一番前のベンチに座る。ベツレヘムの芝居、あるいはアダムとエヴァのエデンの園の芝居をする習慣が生き残っている村もある。
 こういう習慣が今なお受け継がれていることは本当に嬉しいことであるし、今後も続いて行って欲しいものである。非常に温かい雰囲気を持っている大切な行事だと言える。日本ではこのことを経験できないため、すこし懐かしくて、寂しい。

(キシュ・ゲルゲイ)