東北関東大震災に見舞われた皆様、犠牲者のご家族、心よりお見舞いと哀悼の意を表するとともに、震災からの力強い立ち上がりを遠いハンガリーより、お祈りしています。また、被災地の復旧・復興作業にご尽力されておられる皆様、ご苦労様です。
何百年に一度の未曾有の地震と想像を超える津波の発生は改めて、我々人類が厳しい自然の中に生きていることを知らしめてくれました。文明はあたかも人類が自然を征服したかの錯覚を与えますが、いかに文明を発展させようとも、我々人類は自然のエネルギーや法則のほんの一部を利用して生きているにすぎません。繰り返し襲ってくる自然災害は人間の慢心をあざ笑うかのように、それまで築いてきたすべての富や命を一瞬のうちに消滅させてしまいます。その度に、人類の文明や人の命の儚(はかな)さを思い知らされます。
阪神・淡路大震災時にも、ハンガリーから戻った何家族かが被害を受けました。ハンガリーで一生懸命集めたヘレンド磁器がすべて壊れ、「物の収集に凝っていた自分が馬鹿らしくなり、人生観が変わった」と語った人がいました。人類は有史以来、自然と闘い、自然と共存することで、ここまで文明をはぐくんできました。原子核の分裂が巨大なエネルギーを放出することを知った人類は原爆を発明しました。その開発にハンガリー出身の科学者たちが大きな役割を果たしたことは、歴史の皮肉な巡り合わせでした。戦後世界では原子力の平和利用が進み、大きなリスクを抱えながら原子力を電力発電に利用してきました。衛星放送、電話やインターネットが使えるのも、想像を絶する速度で流れる電磁波を使っているからに他なりません。宇宙の速度やエネルギーは人類がどれほど頑張っても足許にも及ばない次元のものです。今回の地震の直接的な原因となった宮城沖から福島沖にかけての数百キロにわたる地球プレートの跳ね上がりも、地球規模から見れば、ちょっとした地殻の変動でしかありません。広範囲にわたるとはいえ、わずか数メートルのプレートの跳ね上がりが数万の人々の生活と命を奪うそのエネルギーに、ただ畏怖の念をもって跪(ひざまず)くしかありません。もしこれが彗星や小惑星の衝突だとしたら、直径数百メートルの天体でも、海面に衝突してできる津波は、その高さが数百メートルにもなります。関東平野が一瞬にして流される津波など、人間の浅はかな想像を超えるものです。しかも、そのような小さな衝突は宇宙規模では珍しいことでも何でもありません。ただ、地球がここまで人類を育むことができるようになったのは、このような衝突から逃れることができたからですが、未来永劫、そのようなことが生じないとは断言できません。太陽がその寿命を終えるまで地球は存在し続けるでしょうが、いずれ人類が消滅する運命にあることを変えることはできません。そういう宇宙の中で、人類が誕生しここまで生き延びているに過ぎません。
日本の国会は休戦状態になりましたが、誰が政府を構成しても政策の根本的な転換が望めないのに、首のすげ替えと権力奪取に明け暮れしてきた政治家には、改めて身を正してもらいたいものです。沖縄基地問題、北方領土問題、消費税引上げ問題、将来の社会保障構想など、本質的で重要な問題に抜本的な解決策を示すことなく、ただ足を引っ張り合うだけで右往左往する政治をあざ笑うかのような今回の震災は、日本の政治の在り方そのものを問うてはいないでしょうか。国と民族の利益を背負い、信念を持って正々堂々と国民に訴えることができる政治家が日本にいるでしょうか。今回の震災を機に、政治や政党のあり方をしっかりと考え直していただきものです。
文明がこれだけ進んでいるのに、津波の襲来に対処する手立てがないものでしょうか。入り江に入る前に、津波のエネルギーを分散させる方法が編み出せないでしょうか。この程度のことができなければ、地球に衝突する天体の破壊など不可能でしょう。これは今後の防災科学に課せられた課題ですが、今回の震災の中で一つだけ人災を上げるとすれば、原発の冷却装置が機能しなかったことです。日本の原発は耐震性に優れていると言われ、政治家も「世界一安全な原発」を謳い文句に積極的に誘致してきました。いかに想像を超える規模の地震とはいえ、建屋が破壊されていないのに、肝心要の冷却装置が作動しなくなったのは人災ではないでしょうか。電源・水源確保の何重もの備えがなかったことを教えています。また、非常事態の処理を一つの民間企業に頼らざるを得ないシステムにも問題がないでしょうか。燃料棒融溶の危機には、日ごろから訓練を積んだ国の特殊部隊が指揮するシステムを構築すべきではないでしょうか。そのような視点で、現存するすべての原発で、原発管理の再検討を行ってもらいたいものです。
政治家の質が悪くても、日本人の対外的な交渉力やプレゼンスが貧弱でも、日本人は我慢強く、組織性と秩序を保って自らの苦難に立ち向かうことができる希有な民族です。NHKニュースの中で、「家も民宿も船もすべて失ってしまった。でも、命があるだけ良いです」と涙ながらに語る女性がいました。「生き延びたことが良かったのか、悪かったのか」と語る女性もいました。儚い命でも、命があり、生きる強い意志が限り、新しい生活を始めることができます。震災被害者の生活の速やかな復興をお祈りします。
ハンガリーの在留邦人の皆様。
今年11月1日、ハンガリーのお盆に当たる日に、小林研一郎氏が当地芸術宮殿ホールでヴェルディ「レクイエム」(鎮魂歌)を指揮します。このコンサートを東北関東大震災の犠牲者を弔う追悼コンサートとして執り行います。日本に関係の深い、当地の国民合唱団、武蔵野音大でも教鞭をとるベルケシュ・カールマンが音楽監督を務めるジュール・オーケストラが無報酬で出演し、芸術宮殿も施設を無償で提供します。コンサートの収益金をまとめて日本赤十字に寄贈します。このコンサートへの皆さまのご協力をお願いいたします。 |