2010年の夏からオンツァイ・チャバ教授のもとリスト音楽院で勉強しています。ですが実は、東京芸術大学2年生の時(2007年)に休学して1年ハンガリーに来たのがスタートでした。この時もオンツァイ先生の元で学ぶ予定だったのですが、先生がアメリカの大学で数年教えることになり、メズー・ラースロー教授(バルトークカルテットチェロ奏者)や妹さんのメズー・マルタ先生にお世話になりました。その1年は本当に貴重な体験でした。初めての一人暮らし、異文化、一週間に2回のソロレッスンはどれも大変でしたが、教わる内容が新鮮で全てが色鮮やかでした。精神的にもかなりタフになったと思います。1年とは言っても10ヶ月程の滞在でし、この時の濃い留学は帰国後もずっと忘れられず、日本でハンガリーシックになってしまい、ハンガリーの曲ばかりを勉強してしまい、日本の先生も呆れていたと思います。
 再度留学を決めたきっかけは、自分の演奏にまだまだ自信が持てなかったので、前からお世話になっているオンツァイ教授のもとで学びたいとかんがえたからです。オンツァイ先生の勧めで大学院に入り、気持ち新たに弾き方をリニューアルできる機会にもなりました。昔と違い吸収するのに時間がかかり、癖を直すために上手く弾けなくなってしまった時もありました。でも、そんな時はハンガリーの世界遺産の通りや鎖橋を散歩したり、大きな温泉に3時間くらい入ったり、美味しい物を大量に口に詰め込んだりしていました。
 ハンガリーでは、ヨーロッパの有名な方に出会える機会が多くて、すごく得をしたような気持ちになります。食べ物に関して言えば、日本食はやはり最高だと思いますが、近所の市場で新鮮なものがすぐ手に入るし、めずらしい野菜にもであえるので買い物がとても楽しいです。交通の便も良くて安く乗り放題ですし、自然もすぐに堪能できます。もちろん、日本より人々がゆったりしていることも有りますが、こちらにいるとあたりまえに諦められるのも不思議です。心に空間が生まれてリラックスすることを覚えて、そうしたら本当に自由な気がしました。

 変な例えですが、80歳の先生に室内楽のメンバーで予定が合わずにリハーサルできなくて・・・と悩みを相談したところ、「いつも思い通りに行かない、それが人生だよ~はっはっは」と笑っておられました。その時に、「あまり思い詰めなくってもいいんだ」、と肩の力が抜けたのを覚えています。
 レッスンについては、過酷ですが幸せな生活を送っています。以前よりも状況が分かっている分、欲張りになってしまい、ソロのレッスンの他に室内楽のレッスンを年々どんどん増やしてしまいました。最初1グループだった室内楽、今では4グループもかけ持ちし、月曜日から金曜日までソロレッスンも含めると7回もレッスンを受けています。1ヶ月にすると30回もレッスンを受けていることになります。毎日、次の日の練習とリハーサルに追われつづけ半年が経ちますが、次第に限界が見えてきました。でも、日本では到底このようなことは不可能ですし、他の国でも週にソロのレッスンを2回受けさせてくれる国も滅多にありません。室内楽とり放題なところは珍しいと聞きます。もし、いろいろな人にレッスンを受けたいと思っている方がいたら、ハンガリーはベストな国かもしれません。何と言ってもやはり先生方の演奏、それに人柄が素晴らしいです。80歳になっても教えて下さる初代バルトークカルテットの先生方はじめ、29歳の才能溢れ熱心な先生もいらっしゃいます。どちらの先生も生徒にとても親身で接してくれますし、お話はいつもためになることばかりです。
 室内楽のリハーサルでも、面白い体験がありました。ハンガリー人ばかりなのでもちろんハンガリー語のみ、これのおかげで意思だけは伝えなければと頑張っているのですが、そんなリハーサルの中で、ピアノ奏者R君がとても上手なのですが、急に即興で不思議な空間を作ったかと思ったらヴァイオリンの子突然チガーヌを弾き始め、ヴィオラが裏うちを始めたので、私もバスで急遽加わり面白いことになりました。これがいわゆる「音楽」だと思うととても嬉しかったのを覚えています。体で音楽を楽しんでいて、きっとこれが珍しいことじゃなくて皆が当たり前に面白いと感じることなんだと思うと、本当に羨ましかったです。私もそんな心持ちを日本に帰っても忘れないでいけるように今のうちにしっかり楽しみたいと思います。
 今年はついに学生最後の年になってしまいました。大学院2年生はディプロマコンサートという、いわゆる卒業リサイタルを1時間半~2時間程度のものをしなくてはいけません。幸いにも私は改装が終わったリスト音楽院本校の大ホールで開催出来る機会を頂きました。せっかく選んで頂いたので、期待に答えられるよう精一杯挑戦していきたいと思います。日にちは5月8日15時からを予定しています。もしご都合の合いそうな方は、ハンガリーものを含んだ楽しめるプログラムになる予定なのでぜひお立ち寄り頂ければと思います。
 振り返ってみると、周りには素敵な先生たちや、刺激を与えてくれるハンガリー始めヨーロッパで留学している友だちとの出会いが有ったなと思いました。これからも出会いを大切にしていきたいと思います。

(しらい・あや)