小さい頃からずっと、「クラシック音楽」というとヨーロッパ人とアジア人が一緒に演奏しているイメージが頭の中に浮かびます。アジアの国々の中でも特に日本では、自分たちの伝統的な音楽と大いに異なるヨーロッパの「クラシック音楽」に興味がある人が多く、また著名なクラシック音楽家が大勢いるのはなぜだろうかと思っていました。しかし、今年の4月からその理由がだんだん分かるようになってきたと思います。
 私は子どもの時5年間ピアノを弾いていましたが、有名なピアニストになりたいという希望はありませんでした。音楽は好きですが、専門を選ばなければならない時が来たときは、外国語の勉強の道に進むことを選択しました。ブダペストのELTE大学で英語、それから日本語を勉強し、2011年2月に卒業しました。卒業後、就職活動のつらい期間にも、ヨーロッパ人とアジア人が一緒に演奏しているイメージがまた何回も浮かんできて、日本からの留学生も勉強していそうなリスト音楽院で、英語と日本語が話せるアシスタントは必要ないかと伺ってみることにしました。教務課の部長に連絡すると、彼女は「いいアイディアですね」と言って喜んで私を雇ってくれました。急に、二つの大好きなこと(音楽と外国語)が繋がる仕事が出来るようになり、大変うれしいです。
 ここで少し、リスト音楽院について皆様にお話ししたいと思います。
ブダペストのリスト・フェレンツ音楽院の前身であるハンガリー王立音楽院は、ハンガリーの最初の高等音楽学校でした。1875年にフランツ・リスト自身によって設立されました。現在、授業は5棟の校舎で行われています。6区のLiszt Ferenc広場にあるアール・ヌーヴォー様式の校舎は大規模改修工事のため閉館しており、2013年秋学期までに再開される予定です。7区のWesselenyi通りにある新しい校舎は2011年9月に開館されて、私が働いている国際留学生課もここへ移りました。
 現在、リスト音楽院に通っている学生のほとんどはハンガリー人ですが、様々な国からの留学生もいます。日本からの留学生の数は60年代からだんだん増えていて、現在では日本人の割合がとても高く、国際留学生の半分以上です。ピアノ科で学ぶ留学生がほとんどですが、バイオリンやチェロを学んでいる人も多いです。日本人の教授も一人いらして、日本からの留学生にハンガリー語を教えていらっしゃいます。日本人の留学生がリスト音楽院を留学先に選ぶのは、音楽院の教授陣と学生の個性を尊重した教育に惹かれるからだそうです。バルトークの音楽が好きな方、コダーイ・メソッドという子供向けの音楽教育方法に興味がある方、ハンガリーの民俗音楽に魅了された方も何人かいるそうです。
 新学期の登録週間は9月18日からの1週間でした。私は4月からこの音楽院で働いているのですが、登録週間が始まるまでは留学生と直接会う機会があまりなかったので、新しい学生との出会いを楽しみにしていました。登録週間の間に、日本人の留学生は皆、親切で礼儀正しいと分かりました。これからも、留学生の人たちとたくさん交流しながら、できるだけ力になりたいと思っています。
 今年はフランツ・リスト生誕200年を記念するリスト・イヤーで、リスト音楽院も様々な記念プログラムを催します。そのうちの一つとして、2011年7月9日に東京藝術大学奏楽堂で行われた、リスト生誕200年記念リスト音楽院・東京藝術大学音楽学部コラボレーション・コンサートがあります。演奏会ではリスト音楽院での留学経験があるピアノ科教員らとリスト音楽院のピアノ教授であるドラーフィ・カルマーン教授が演奏しました。リストの誕生日である10月22日には、世界リスト・デーのイベントとして彼のオラトリオ『キリスト』が、リスト音楽院の管弦楽団によって上演されます。管弦楽団のメンバーの中には国際留学生も何人かいます。
 私はこのような素晴らしい職場で働いていて、とても好運です。日本からの留学生やお客さんと上手く会話したり、ハンガリー音楽や一般的なヨーロッパ音楽と日本の音楽家との関係をもっと理解できるようになるよう、これからもがんばります。
【インフォメーション】
リスト音楽院のホームページ(日本語版):  http://www.lfze.hu/japanese
リスト・イヤーに関する情報:  http://rapszodia.hu/Liszt_ev.html
「音遊人 (みゅーじん)」という雑誌の2011年09月号は「生誕200年—フランツ・リストを求める旅」という特集です。