私が留学しようと決意したのは、2010年の岐阜・リスト音楽院マスターコースを受講したことがきっかけでした。
 当時、私は日本の音楽大学に通いながらマスターコースに参加し、サバディ・ヴィルモシュ先生のレッスンを受けることができました。そして講習会で先生の演奏を聴き、プロとしての演奏の姿、表現力、音の力強さに圧倒され、先生のもとで勉強したいという憧れを持ちました。出発前、初めての海外生活が楽しみな反面、言葉も分からないので、不安な気持ちもありました。
 留学生活1年目はハンガリーの生活習慣に慣れるのに必死でした。ハンガリー語の授業を受講し、留学生達との交流も深まるにつれ、徐々に街中の雰囲気に溶け込むことができました。留学中の課題は、技術の向上や表現力を鍛えるだけでなく、一流の演奏家の音を多く聴き、自身の演奏に活かすことでした。オペラやソロコンサート、オーケストラ、様々な演目を積極的に聴きに行き、時間の有効的な活用ができました。また、休日には仲間と美味しいお酒を飲みに行ったり、レストランでご飯を食べたり、長期休暇の時にはハンガリー国外へ旅行にも行き、とても充実した日々を送ることができました。
 留学中の悩みもありました。ヴァイオリンを弾きながら自分の納得できる音が出せない時期が続き、一時は自分がどんな音を出したいのかさえ分からなくなってしまいました。レッスンを受けていても解決できず、周りを見ると上手い人たちばかり。自信も無くなってしまいました。そんな時、先生のコンサートを聴きに行く機会があり、曲目はチャイコフスキー作曲のヴァイオリンコンチェルトでした。魅力的なパフォーマンス、ホールに響く深い音、楽しそうに演奏する表情に、私は涙が止まりませんでした。先生の音は1つ1つが確実であり、無駄がなく、そして多彩な音色を奏でていました。先生の音楽がきっかけで、私はいろいろと考えました。楽器を持っていない時でも自然から学ぶべきことが沢山あるのではないか、何も思わなければただ通り過ぎる景色からも学ぶことがあるのではないか、それが多彩な音が出せる要因なのではないだろうか、と。その後私は、自分の出している音と初めて本気で向き合えるようになりました。レッスンにおいても、表面の音でなく心から沸いてくる音を学ぶようになりました。
 留学生活2年目は、ハンガリーの作曲家の勉強をしようと取組みました。バルトークやフバイなど、ハンガリーを代表する作曲家の作品は日本では多くは学べず、奏法も違いました。また、様々な場所で演奏する機会にも恵まれました。ハンガリー人の前で演奏するのは本当に新鮮で緊張もしましたが、とても良い経験ができ、留学生活の全てが自分の音楽に繁栄できたと思います。
 さて、私の留学生活の集大成と言えるのが、帰国の直前に参加したフィンランドでの講習会でした。そこでもサバディ先生のもとでレッスンを受講しました。私にとっては帰国前最後のレッスンだったので、気合いを入れて臨みました。しかし、同じ講習会に参加した女性メンバーに私は驚かされました。全員が私より年下の学生。そしてもの凄くレベルが高く、私は彼女たちの練習に対する取り組み方や演奏に刺激を受けました。私も留学していたのだからと毎日必死にレッスンを受け、練習に励みました。途中、辛くて何度もくじけそうにもなりました。しかし、彼女たちを見ていて次のように思いました。皆、他人と闘うのではなく、自分自身と闘っている。勿論、ライバル意識はそれぞれありますが、自分というものをしっかり持ち、自分のしたい音楽を奏でている、と。
 先生は終始、熱心な指導をして下さり、幅広い表現力を習得できました。留学生活最後の講習会は、自分にとっての課題をクリアし、新たな課題も見つけることができました。また自分の良さも発見できました。留学前にはなかった自信をつけることができました。この自信を持ち続けられるよう、日本に帰国しても常に追求し続けたいと思います。そして刺激を与えられるような演奏家になりたいです。
 親身にレッスンをしてくれた先生はもちろん、辛い時も支えてくれた友達、ハンガリーで出会った多くの方々、そして私のことをいつも応援し続け、見守ってくれた両親、ハンガリーで音楽の勉強ができた環境に心から感謝したいと思います。ハンガリーは私にとって、第二の故郷です。そしてまた必ず訪れたいと思います。2年間の留学生活、ハンガリーで出会えた友達、仲間の演奏、そして先生から学んだ音、絶対に忘れません。

(うつぼ・さき)