私は5年間の留学生活を経て修士課程をまもなく修了します。このように長い期間留学し勉強に時間を費やせた背景には、尊敬する先生方との出会いがありました。
 日本で音大を卒業し演奏活動をはじめていた留学前、小林研一郎先生のオーケストラに幾度か参加する機会があり、さらに室内楽の演奏を聴いていただく機会がありました。
「この先もヴァイオリンを弾いていて良いでしょうか。」そんな弱気な私の言葉に、先生は背中を押してくださいました。留学してからも、来洪のたび、リハーサルの様子やコンサートで満員の聴衆に喝采を浴びる小林先生の姿に、いつも力をいただいていました。
 ヴァイオリンの師匠のサバディ先生からは、プロフェッショナルの演奏の準備の仕方とメンタルの強さに特に影響を受けました。初めての日本人門下生で最初はわからないことも多かったのですが、先生は分け隔てなくいつも明るく接してくださいました。現在では5人の日本人留学生がクラスで学んでおり、にぎやかでお互いに刺激を受けています。
 日本ではソロ中心に勉強してきたので、室内楽の経験も増やし仲間の信頼を得る音楽家になるというのを留学時から目標としていました。
その室内楽ではピアニストのグヤーシュ・マルタ先生に出会うことができ、音楽的に非常に深いものを学ばせていただいています。先生の室内楽クラスに在籍するレヴェルの高いさまざまな楽器の学生に学ぶことも多く、厳しさを持ちながら魅力的な演奏をする先生は女性音楽家として私の目指したい憧れの姿となりました。マルタ先生の「バロックもやってみない?」という勧めでチェンバロとのバロックソナタを古楽のオルフェオ管弦楽団のヴァーシェギ先生の下で勉強することになったのも音楽の理解を深める大きなきっかけとなりました。
 ソロの勉強と同時進行で、弦楽四重奏、ピアノ三重奏、ピアノ五重奏をはじめ、さまざまな楽器の編成で室内楽を経験して、いよいよ卒業の年になってしまったのですが、卒業演奏会でフランツ・リスト室内楽団と共演することができたのは、思いがけない恵みとなりました。
指揮者を立てないで、小編成で世界トップクラスの生命力に満ちたアンサンブルをする彼らの演奏はいつも私の憧れでしたし、留学中勉強しようとしてきたことの延長線にあるものだったからです。私はせっかくの機会なので室内楽的な魅力を出せるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲にチャレンジすることにしました。
 リハーサルでは弦楽器群と管楽器群が向かい合って座り、その中心に私が立って演奏しアンサンブルを整えていきました。リハーサルはもちろん、5月27日のリスト音楽院大ホールの本番の舞台上でさえ、背中から聞こえてくるオーケストラの演奏に新しいアイディアが湧いてくるような至福の時間でした。
 その後続いた3回の本番にオーケストラのエキストラとしてリスト室内楽団に参加させてもらうことができました。20日間ほぼ毎日彼らと演奏を共にするようなチャンスを得られたので、緊張の中少しでも多く吸収したいと思いました。メンバーそれぞれがすばらしい音楽家で、当たり前にできてしまうレヴェルがとにかく高いというのを、改めて感じました。
 今、ひと段落しこの文章を書いていますが、今後はこれまで学んだことを生かし、現場でさらに勉強していけたら幸せだと思っています。これまでの留学生活を支えてくださった皆さまに、心から感謝を申し上げます。