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さらなる高みを目指して
リスト音楽院ピアノ科大学院２年
渋谷 有佐 |
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音楽高校に在学していた頃、卒業後の進路は「第一志望の大学」という揺るぎない目標があり猪突猛進していましたが、大学に進み3年生の頃、「卒業後は？」という将来の道を決断すべき時期に差し掛かり真剣に悩みました。まだ勉強したい挑戦したいという気持ちが強くあり、クラシック音楽の本場であるヨーロッパで勉強してみたいという思いから、留学を決めました。留学先では悩みましたが、私の高校･大学時代の恩師がハンガリーで学ばれていたことから、自然と話がトントンと進み、その頃来日されていた、ジョルジュ・ナードル先生とお会いしました。
先生は一見怖い顔をなさっていますが、とても愛情深く情熱的で、レッスンでは一切妥協を許さずいつも全身全霊で教えてくださるので、すぐに「この先生のもとで学んでみたい」と感じたのを覚えています。 |
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また、ナードル先生と私の恩師は同じ教授の下で学ばれていた兄弟弟子だったので、目指している音楽の方向性も合うのではというのも大きな決め手でした。ハンガリーで入試を受け、無事にナードル先生の下で学べる喜びを感じたのも束の間、一年目はとてもハードな毎日でした。
日本では、コンクールや実技試験、コンサートなどの目標に向けて2カ月ほどのペースで曲を仕上げていました。ところが、ナードル先生のレッスンでは初回から暗譜をすることを必須とされ、同じ曲は2回か3回までしか見ていただけないという猛スピードでした。最初はとてもとまどい必死に楽譜とにらめっこしていたのを覚えています。でもだんだんペースが掴めていき、どのようにすればもっといい演奏になるだろうと練習段階から意識して考えるようになり、少しずつですが初回から自力で曲を作り上げていけるようになりました。日本にいたころはどちらかというとレッスンや練習でも受け身だった私にとって、この変化はとても嬉しいものでした。留学して最初の1年でかなりの曲を勉強でき、たくさんの音楽に触れることができ、とても充実していました。そして、ハンガリーではコンサートやオペラ、バレエも驚くほどの低料金で観ることができます。毎日のようにでかけては、感動で胸をいっぱいにして帰っていました。
知り合いが全然いなく心細い気持ちで飛び込んだハンガリーでしたが、交友関係もだんだん広がっていきました。ブダペストにいる日本人は音楽学生以外にも獣医学生や医学生、プロのバレエダンサー、お仕事でこちらに住まわれている方など様々な方がおられます。いろいろな方とお話をすることで、今まで知らなかったたくさんの世界を知ることができたり、周りの方から刺激を受け私もがんばらなきゃと元気ややる気をもらったり、ホームシックになったときにはそばにいて支えてもらったり。ここハンガリーでの出会いは私にとって本当にかけがえのない大切なものになりました。
驚いたのが、ハンガリーには日本語を勉強している学生さんがたくさんいることです。日本人よりも綺麗な日本語を話したり難しい文章を書けたりするので、本当にびっくりしました。私はハンガリーでは英語を話していますが、お買い物の時や、先生との簡単なコミュニケーションはハンガリー語で話しています。まだまだ単語や文法など分からないことはたくさんありますが、週に2回あるハンガリー語の授業や、ハンガリー人のお友達に教えてもらいながら、少しずつでも話せる言葉が増えるよう頑張っていました。留学当初はちんぷんかんぷんだったハンガリー語も、今では聞き取れるようになってきたりし、愛着が増しました。一時帰国やコンクールなどで他国に行き、ハンガリーに戻ってきてハンガリー語を耳にした際、ほっと安心し懐かしく思ったことを覚えています。
1年間のパートタイムコースを経て次の年に大学院に入学してからは、座学の授業やピアノや室内楽のレッスンなどで毎日が忙しく、この年はいろいろな角度から音楽やハンガリーの文化を学べました。授業は楽曲分析や音楽史、イタリア人の先生による音楽用語の解説、ピアノの曲などをオーケストラや弦楽四重奏用に編曲する授業などがありました。ハンガリー・カルチャーという授業では校外学習として博物館を見学しに行ったり、ハンガリーの歴史について多くのことを学びました。
今は大学院2年目で6月に卒業します。5月にセルビアで行われた国際コンクールでは第3位を頂け、その翌週に行った卒業試験を兼ねたディプロマコンサートでは最高評価の5にプラスがつくという私にとって最高の評価を頂くことができました。留学当初、右も左もわからなかったハンガリーで3年、私なりに一生懸命歩んでき、少しでも成長できたかなと今思い出にふけっています。
いろいろうまくいかないことやとまどったこと、文化の違いなどで思い通りにいかなくて悔しい思いをしたこともたくさんありました。でもハンガリーで出会ったたくさんの方々や素晴らしい先生方に心身共に支えられ、遠い日本から見守ってくれている家族や友人、大切な方々に応援していただきながらこの地で勉強できたこと、とても幸せに思っています。卒業後は帰国予定でしたが、幸運なことにハンガリー政府の奨学金をいただけることになり、あと1年ここで勉強を続けます。感謝の気持ちを忘れず、さらなる高みを目指して、大好きな音楽と向き合っていきたいと思います。 |
（しぶや・ありさ） |
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