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夢のような時間
バラシ・インスティチュート
阿南 瑞穂
冬が戻って来たかのように、薄暗く肌寒かった5月末が過ぎると、一変して今度は夏が待ちきれずにやってきたかのように太陽の日差しがいっぱいの6月がやってきました。もう6月なのか、時の流れの速さに驚きつつ、ハンガリーに来て5か月が過ぎようとしています。
「ハンガリーってどんな国なんだろう」。そんな興味本位の気持ちで私はハンガリー語専攻になりました。小さい頃から、外国に住んでいる人たちはどんな風に暮らし、どんなことを考えているんだろうと、外国に対して憧れを抱き、いつか住んでみたい、その国の空気を感じてみたいと夢見ていました。外国語を学び、その言葉を通してその国についてもっと知りたい。できれば大学では未知の言葉、世界について一から学びたいと思っていました。だから首都ブダペストの名前しか知らない、想像もつかないハンガリーという国の言葉を勉強することになったときは、不安よりもワクワクした気持ちでいっぱいでした。そしてハンガリー語を勉強しているから、その国をもっと知るためにハンガリーに留学するという考えは、私にとってとても自然なことでした。というのも、外国に憧れを抱いていた私の中で、いつからか「留学する」ことが夢の1つになっていたからです。
その夢が現実のものになって、もう5か月目。私は今年の2月からブダペストのバラシ・インスティチュートという語学学校に5か月間留学しています。本来ならば昨年9月から今年6月までの10か月のコースなのですが、大学のオーケストラ部のコンサートが昨年11月にあり、部活も最後までやり通したい欲張りな私は、コースの後期のみ申し込むことにしました。そんな欲張りで、のほほんとしていた私を待ち受けていたのは授業、授業、ハンガリー語の毎日でした。私が通っているクラスは前期に文法など語学を固め、後期からは語学の授業に加えて歴史、文学、言語学といった「ハンガリー学」の授業が始まります。もちろん、すべてハンガリー語で行われるのです。日本で文法授業は終えていたものの、こんなにたくさんのハンガリー語を聞いたのは生まれて初めてで、軽いパニックになりました。先生の言っていることが分からない、みんなの言っていることが分からない、授業についていけず、毎日が新出単語のオンパレードでした。おまけに授業に新しく入って1週間後に受けた語学のテストが悲惨な結果に終わり、情けないやら悔しいやらどうしようもない気持ちになりました。そんな落ち込んでいた私にクラスメートや友達は、「来たばっかりなんだから、大丈夫」、「大事なのはテストのために勉強するんじゃなくて、自分のために勉強するものでしょ」と励ましてくれました。
みんなの優しさに触れて、それまで私は1人でなんとか頑張ろうとしていたこと、こんなにも私の周りには頼れる素敵な人がたくさんいるということに気が付きました。分からないことはちゃんと聞く。当たり前のことですが、日本でちゃんと勉強してきたと変に自信のもっていた私は、「分からないことを分からない」と認めることが恥ずかしいと思っていたのです。ある意味打ちのめされてよかったのかもしれません。それから、分からないことがあって当然、だけど1度学んだことは自分のものにする。これが私のモットーになりました。そうして迎えた1か月後のテストでは、見返すべく受験生並みに勉強し、結果なんとクラスで1番をとることができました。今でもあの驚き喜んだ瞬間を覚えています。そしてやればやる分だけ報われるんだなと自信がつき、授業にも前向きな姿勢で取り組めるようになりました。
授業にも慣れてきた頃から、春の陽気がやってきてイースター、旅行、お出かけと楽しいこともたくさん増えてきて、ますます時の流れが早くなりました。
最近嬉しいことはハンガリー語に慣れたのか、街の人のふとした会話が聞こえるようになり、ハンガリーの人と会話することに抵抗が無くなったことです。先日リスト音楽院でのコンサートを聴きに行った帰りのバスでそのオーケストラの人と隣になったことがありました。ヴァイオリンを持っていてそのコンサートで見た顔だったので、どうしようかと悩んだ末に思い切って話しかけてみたところ、見事にオーケストラの方でしかも旦那さんが私の学校で働いている方だったのです。ちょうど同じバス停で降りるまでお話して、私の精いっぱいのハンガリー語も褒めていただき、るんるんな夜でした。
人の出会いって素敵だなとハンガリーに来て、改めて感じます。学校の友達、先生、ハンガリーで出会った友達、そして通りで出会った人たち。学校の皆も6月中旬にある語学テストが終わると、続々と帰り始め、私も今月中にはハンガリーからフランスに移り、そこでまた半年フランス語を勉強する予定です。もう何人かにお別れの挨拶をし、折角出会えたのにもう会えないかもしれないという切ない気持ちになりました。一期一会という言葉もあるように、その時その時の出会いが大切なんだなと感じるようになりました。それでも、またどこかで会える気がすると感じる人が何人もいて、それは幸せなことだなと思います。ハンガリーでの生活を最後まで楽しんで、次はフランスへ。今しかできないことを人との出会いを大切にして、後悔のないようしていきたいです。
(あなん・みずほ)
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Web editorial office in Donau 4 Seasons.