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第1回ダヌビア・タレンツ国際音楽コンクールinヴァーツ市(Vác, Hungary)開催
桑名 一恵


 9月上旬に5年に一度行われる世界的に有名なフェレンツ・リスト国際ピアノコンクールの熱気も冷めやらぬ中9月下旬にはハンガリーの首都ブダペストから北へ35kmに位置するドナウ川沿いに佇む街ヴァーツ市で初めての国際音楽コンクールが開催されました。その名もダヌビア・タレント国際音楽コンクール。ドナウ河のせせらぎと共に日々を歩んでいるヴァーツ市ならではの名称です。初回コンクールカテゴリーはソロピアノ・4手ピアノ・室内楽とピアノを中心としたものとなり、世界各国から15校の音楽院・音楽大学・音楽学校からの在学生・出身者など、総勢100名以上のピアニストの応募があり、12か国の出場者達がヴァーツ市に集結しました。内訳はハンガリー国内70%、国外30%(日本、ロシア、モルドバ、スロヴァキア、クロアチア、ポーランド、ベトナム、イタリア、韓国、オランダ、アメリカ)。国内外のコンサート出演の副賞なども授与され、初回のコンクールとしては成功したと主催側も評価しています。その中でも今回審査委員長として、日本を中心に国内外と精力的に活動されています日本人ピアニストの赤松林太郎氏が任命されていたことは、これからの両国が音楽を通しての国際交流の意味を大きく・深いものとして繋げていくきっかけとなったのではないかと感じました。同氏はハンガリーとの繋がりも多く、今回審査委員長に抜擢されたことにコメントも頂けました。誠に感謝しております。主催者そして審査員として携わっていたハンガリー人ピアニストそして現在ブダペスト9区音楽学校ピアノ科学科長のキシュ・ユリアンナ先生からもコメントを頂きましたので掲載させて頂きます。


 赤松 林太郎(あかまつ・りんたろう=洗足学園大学客員教授)コメント
 2016年9月28日~30日の会期で、ダヌビア・タレンツ国際音楽コンクールが開催された。初回にもかかわらず、この美しい街ヴァーツには、ハンガリーのみならず、近隣諸国(オーストリア、スロヴァキア、クロアチア、ポーランド)をはじめ、日本や韓国から百名におよぶ参加者が集い、それぞれに熱演を繰り広げた。
 このコンクールを提唱されたキッシュ・ユリアンナ先生とは、私が毎春ブダペストで主催しているマスタークラス(リスト音楽院共催)をとおして交流が続いており、今回のコンクール開催にあたって、審査員長を任される経緯となった。バーゼル音楽大学からヤン・シュルツ教授が招かれ、ユリアンナ先生をはじめ、室内楽のコースではハンガリー人の演奏家も審査に加わった。
 生年によってAからEまでのカテゴリーに分かれており、Eカテゴリーは年齢の上限を持たないプロフェッショナルなコースとなっている。自由なプログラムによる30分のリサイタルでは、演奏家の個性がよく見える。それぞれが得意とするものをアピールすることで、私たちはその個人を知ることができる一方、彼らの演奏家としての資質や課題の多くを見出す。審査員の仕事は演奏家の良し悪しを点数に表していくことだが、統一した見解はなかなか得られず、今回のコンクールでは各級が終わるたびに、審査会議は紛糾して、英語・ドイツ語・ハンガリー語が大声で飛び交った。もっとも、これは私たちが音楽に対して熱い思いを抱いている何よりの証で、私たちはヴァーツで多くのすばらしい才能の原石を見つけることができた。
 とりわけ2000~2004年生まれ(B・Cカテゴリー)の才能の豊かさに驚かされた。審査後に若いコンペティターと話して、演奏や解釈をめぐる音楽観について尋ねたのだが、彼らは思考と洞察の深さを表現するだけの語彙と話法を持ち合わせ、そのためにどういった技術が必要かということを冷静にとらえることができていた。ヨーロッパの若者たちが日本人の同年代と決定的に異なるものは何か。私を含めて、日本人の教育にあたる姿勢を問われているような気がした。
 Eカテゴリーで満場一致の第1位を獲得したWon Hyun Jungは、イギリス王立音楽アカデミーを卒業後、ミシガン州立大学で博士課程を修めている秀英。ハンガリー国内とローマでのリサイタルが与えられた。同じくEカテゴリーで第1位を受賞した杉元太は、ポーランドで名教授ピョートル・パレチニに師事し、ヴァーツで協奏曲を演奏する権利をした。
 特筆すべきはCカテゴリーで満場一致の第1位を得たペクニック・ミア。彼女はすでにクロアチア国内で多くのコンクールで結果を残しており、その音楽観はプロフェッショナルな技術と豊かな感性によって完成されている。来年3月にブダペストで開催を予定している受賞者コンサートにも招聘を考えている。
 このようなコンクールはイタリアやフランスに多いものの、東ヨーロッパでは数えるほどしかないため、若いピアニストたちにとっては大変意義のあるコンクールに位置づけられていくだろう。来年度開催の成功も心より祈念したい。
 
 キシュ・ユリアンナ先生(審査員及びコンクール実行委員)コメント
 コンクール前に申し込み情報から、このコンクールはハイレベルなものとして第一回目を迎える事ができると確信しておりました。最終日に行われた授賞式及びガラコンサート後、主催者だけでなく今回携わって頂いた各国の審査委員の皆さんが、この企画と可能性に次回も企画するべきだと強く賛同して頂けました。第1回目が終わった今、すでに来年度に向けての企画がスタートしており、今回よりも更に良いものする事と同時にしっかりとした形になりますように進めていけたらと考えています。まだ企画段階ではありますが他の楽器のカテゴリーも設置する予定としています。
 主催者側は、第1回審査委員長として赤松 林太郎氏へ依頼した事に感謝の意を表しています。彼は審査員長として素晴らしい仕事をやり遂げてくれました。更に審査員長としてだけでなくピアニストとしても一人の音楽を志す人間としても彼に任せて正解だったと感じています。私たちは次回も同様に彼を審査員長として引き続き迎えたいと強く願っており、彼との話し合いやアドヴァイスを元に次回のコンクール実現に向けていく方針です。今回のコンクール全体にかかった経費は参加料全額から会場費・広告費・ピアノレンタル費・賞状やトロフィー費・審査員料などが全て賄う事が出来ましたが、次回の目標の一つとして数多くのスポンサーの皆様にお声がけさせて頂き、この国際コクール企画へサポートして頂けるよう積極的に活動いきたいと考えています。

 

(くわな・かずえ)
 
 

Web editorial office in Donau 4 Seasons.