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「四分の一」の喜び
リスト音楽院大学院ヴァイオリン科
花岡 沙季
私の2年の留学生活は、あと半月ほどで幕を閉じます。日本に帰りたくなったり、こちらの友達に悲しいことを言われて傷ついたり、レッスンで上手くいかず悔しい思いをしたり、何度も家でボロボロと泣いた日がありました。留学生活の四分の三は辛く、四分の一は嬉しかったように思います。でも、辛いことがあったお陰で、残りの四分の一の喜びは特別に輝いています
私は高校生の頃から留学に興味があり、語学教室に通っていましたが、留学先はきまりませんでした。同じ敷地に7年以上も通いたくないという理由で、大学院に進むことも考えられずにいました。ところが、大学4年になって、ペレーニ・エステル先生が1年間客員教授で来日されました。1年間だけ日本にいながら留学する感覚で先生に付く予定が、先生の人柄、演奏に惚れ込み、出会ってほんの2か月後に、「先生の許でもっと勉強したいので、来年リスト音楽院のマスターを受けます」と言うほどまでに、先生に思い入れしました。レッスンを受けて間もない私に、先生は、「いらっしゃい!」と快く迎え入れて下さり、語学教室も辞め、あれよあれよという間にハンガリー留学が決まりました。
夢と希望を抱いてハンガリーに来た私ですが、学校が始まってすぐに毎日オーケストラの授業があり、ハンガリー語も分からず、どこから弾くのかも分からない、誰も助けてくれない、そんな日々にストレスを感じるばかりでした。
その頃書いていた日記を読み返すと、紙いっぱいに赤の色鉛筆でぐちゃぐちゃなページが続いていた程、憧れの留学生活とは真逆な毎日に、悔しさと焦りでいっぱいでした。
ハンガリー語の語学学校に通い、日本人と外国人とを問わず、いろいろな人に積極的に話しかけたことで少しずつ友達が増え、私の周りには素敵な友達が沢山できていました。王宮で演奏をした時に譜面台を忘れた私に、「私の譜面台を使って!私は椅子を使うから!」と言って自分の譜面台を私に貸してくれた友人。「お礼に何かさせて!」と言うと、「気にしないで!私もよく忘れるから!」と言ってくれた時には、本当に嬉しく思いました。また、私の先生や伴奏助手のマリアンナは、時には厳しく、時にはまるでハンガリーの母や姉の様に接してくれました。5月のディプロマコンサートでは、最後のレッスンまでほぼ1ヶ月間、レッスンの度に叱咤されていましたが、コンサート当日は開演直前から休憩時間、さらには終演後に誰よりも早く駆け付けてくれ、沢山のハグとキスをくれました。もちろん日、本人の素敵な友達もできました。同期生とはお誕生日に合わせ同期会を開き、誰かの家で和食や中華を作り、夜の公園でバレーボールをしたり、朝までトランプをしたり、それぞれの留学生活で起きた辛い事や楽しい事を話したりと、同期会はいつも私の良いリフレッシュになりました。
CDや本などで名前を見たことがある素晴らしい先生方から指導を受けられ、その先生方からハンガリーの作曲家たちの裏話や彼らの日常話を聞けたこと、その先生方と共に演奏できたこと、地方公演含め月に何度も沢山のコンサートに出演できたこと、ハンガリー独特の拍手が分かったこと、日本では信じられない程安い値段で沢山のオペラやバレエを見られたこと、日本では出会えなかったであろう職業の方達と出会えたこと、ヨーロッパ各国を旅行できたことなど、留学の成果は数えきれません。
大学3年生の時に、室内楽でコダーイのテルツェット(三重奏)を勉強した折、先生から「コダーイはハンガリー人だから、もっと土臭く弾かなくてはいけない」と言われました。しかし、実際ハンガリーに来てみると全く土臭くなく、やはりその土地に行って、作曲家と同じ空気を吸わないと分からないものがあるのだな、と実感しました。帰国してからはハンガリー音楽の良さ、作曲家たちの裏話、そして私の先生の素晴らしい右手の使い方、音楽の作り方を沢山の人に伝えられると良いな、と思っています。
留学する前は7年間一人暮らしをしていましたが、この短い2年の留学先での一人暮らしは本当に孤独で、日本での一人暮らしとは比べ物にならない程寂しかったです。だからたまには、友達とでも外食をしたり、家で料理したり、散歩をしたり、あまり自分を追い込み過ぎず、辛い時は誰かに話したり、自分なりのリセット法を見つけることをお勧めします。困った時は恥ずかしがらずに周りの人に頼るということも大事です。もちろん、何も努力せずに最初から頼る事はまた話が違いますが、こちらの人達は私達が思っている以上に優しく、本当に親切にしてくれます。
語順が違っても発音が違っても恐れずに、積極的に話しかけて、沢山の友達を作る事をお勧めします。私はいつも笑顔でいることを心掛けていますが、それもあって沢山の素敵な人たちと出会えました。
ここハンガリーで過ごした日々は、私の大学生活4年間よりも濃く、とても充実していて、心からハンガリーに留学して良かったと思っています。ここで見た景色、美味しい料理の味、友情、愛情などこちらの日々で抱いた感情など、全てがこれからの私の音楽、そして人生のスパイスになる様にしたいです。
最後になりましたが、こちらでお世話になった先生始め、皆様には心から感謝しています。有難うございました。
(はなおか・さき)
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Web editorial office in Donau 4 Seasons.