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ディプロマを迎えて
松山 翔子 (リスト音楽院大学院チェロ科) |
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ハンガリーに来て5年が経とうとしています。現在師事しているオンツァイ教授のレッスンに魅せられ、高校卒業後に入学試験のためハンガリーへ始めて来た時は、この国で自分が生活できるのか不安でしかなく、合格通知を受け取った時も素直に喜ぶことができませんでした。
大学生活当初はとにかく授業が多く、授業の合間を縫って練習時間を見つけ出し、気がついたら1日が終わっている・・という毎日だったのを覚えています。リスト広場にある校舎と旧リスト音楽院を交互に行き来しながら1日6クラス、その間に細切れに家に帰り、ご飯を食べて練習をするという、今思えば笑ってしまうような曜日もありました。 |
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しかしその生活の中でも、授業の中で様々な国籍の学生の意見や文化の違い、そして同じ門下生の確立された演奏技術と確固たる自信を持って演奏する姿にとても刺激を受けました。日本では講義でもレッスンでも、先生の言われたことを受け止める、受動的な授業が多い気がしますが、こちらでは教授の言われたことが理解できなかったり違う意見のある場合、皆積極的に疑問や反論を投げかけることが多いです。だからこそ、その授業内容や曲に対して自分なりの解釈、アイディアをしっかり持ち、授業を受けることに対しても、曲を演奏することに関しても責任や意思を持ち、それが説得力のある演奏につながっているのだと思います。
作曲家コダーイの弟子であるヘジ・エルジェーベト教授にソルフェージュをよび和声楽を学べたことも貴重な経験です。教授自ら作られた、コダーイ・メソッドに基づく参考書を使いながら、和声・ソルフェージュの授業を受けました。和声・ソルフェージュ共にとても実用的です。教授が弾かれる4声を聞き取って和音の種類や転調の過程を書き留めることから始まり、次は先生の言われる和声の進行に従ってピアノで弾く、そして実際の楽曲の1部分を聞き取って和声進行を瞬時に理解するという具合です。3声から成るバッハなどの楽曲を取り上げ、1番上と1番下の旋律をピアノで演奏しながら真ん中の旋律を歌うという訓練もしました。時代ごと、作曲家ごとの基本的な和声進行や作曲技術を学べたことも、音楽を演奏するにあたってとても役立っています。多くの室内楽を経験できたことも大きな収穫でした。多くの室内楽曲を勉強できたことはもちろん、レッスンやリハーサル等一緒に過ごすことが多いので、室内楽を通して良い友達を得ることができました。音楽史や心理学等の授業は外国人だけ別の授業を受けることが多いので、ハンガリー人との関わりは希薄になりがちですが、私は幸運にもハンガリー人と室内楽を組むことが多かったので、ハンガリー語の上達はもちろん、ハンガリーの文化や音楽性、習慣に触れることができたのが貴重な経験でした。
昨年9月からはバルトーク高校でチェロのレッスンの実習をしています。今まで何年もチェロのレッスンを受けてきましたが、いざ自分が教えることになって、改めて指導することの難しさを痛感しています。生徒に何が必要かを見極めて1時間で何か成果を感じさせてあげること、そのためには自分が曲、演奏技術について熟知していないといけないこと・・・指導に関してだけではなく、今までの自分の音楽の理解度や技術の理解度の不十分さに気づかされました。しかし、わたしの喋るつたないハンガリー語の一語一語からできるだけ多くを得よう、わたしの弾く一音一音を聞き逃さないように、と真剣にレッスンを受け、何かひとつ理解したり弾けるようになると笑顔を向けてくれる生徒を見ていると、実習とはいえ、この生徒たちに自分のできる最善のレッスンをしてあげたいと思います。
この文章を書いている今、私はディプロマコンサートを3日後に控えています。最初不安だらけで始めた留学生活ですが、親身にレッスンをしてくださる教授の方々や、周りにいる友達、そして遠くから常に応援してくれている両親に支えられ、リスト音楽院で充実した勉強をすることができています。5年間の集大成として、胸を張ってステージにたてるよう、あと少しですが練習に励みたいと思います。 |
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