ハンガリーの騎射に触れて
早坂 麻里絵
私が初めて馬に乗ったのは両親に連れていってもらった牧場でした。3歳だったのでうっすらとした記憶しかありませんが、ポニーに乗り、引き馬で1周するというものを面白がって10周したそうです。
小4から乗馬を習い始めるも他に興味が移り、馬に触れたいと思いながらも日々に追われてしまいその気持ちだんだんと薄れていきました。
3年前にまた乗馬をしたいという気持ちが強くなり「えにしホースパーク」を見つけて体験レッスンに行きました。偶然にも小学校時代の同級生が家族で経営していると知り、さらに宮城県で唯一、流鏑馬(やぶさめ)を習えるクラブということもあり、入会を決めました。
そもそも流鏑馬とは神事であり、寺社への奉納行事として披露することが多いため、一般人や特に女性が容易に愛好できるものではありません。そこでスポーツとして誰でも参加できるように作られたのが「競技流鏑馬」です。私が初めて参加した流鏑馬の大会は、青森の十和田で行われる「桜流鏑馬」で名前の通り満開の桜の下で行われ、参加するのも女流騎手だけの大会でした。初めての参加にも関わらず新人賞を頂けた喜びは今でも鮮明に覚えています。
ハンガリーへ行ってハンガリーの騎射を体験してみたいと思ったのはNHKのTV番組がきっかけでした。まるで日本の流鏑馬のような競技があるのだと驚きました。3月に妹がリスト音楽院のマスタークラスに参加することが決まっていたため、同行する決心をしました。馬術が盛んなヨーロッパで馬に乗れることへの期待に胸が弾みました。
ハンガリーでは現地の方の紹介でハンガリーの騎射の権威であるカッシャイ・ライオーシュ氏に会えることになり、ブダペストからカボシュメーロまで出かけることになりました。訪ねた日はハンガリー中の乗馬クラブから人が集まり、騎射の昇格試験と入団試験が行われていました。騎射とは馬上で弓を射ることを意味し、大陸では狩りが欠かせないため遊牧民が得意としている馬術の一種でもあります。
実技とは別に詩の朗読や5キロのマラソンなど戦士としての精神力と体力を培うための試験もありました。生徒たちは道着のようなものを着ており(日本の道着そのものです)、帯の色で段位分けをしていました。
カッシャイ先生はハンガリーの原住民であるフン族の生活や戦い方になるべく近い形のままの騎射を広めたいと話していらっしゃいました。受験者はもちろんこれから学びたい人や観客がたくさん来ていてまるでお祭りのようで、とてもメジャーなものなのだと感じました。
日本の流鏑馬とハンガリーの騎射の違いを述べると、私が騎射体験をしてまず感じたのは馬の速度です。流鏑馬は放てる矢が3本のみでタイム計測もあるため、スピードがあります(日本の流鏑馬は的を射た数と走路を走りきるまでのタイムを合わせた点数で競います)。走路は180〜200m、的は50〜60m間隔で3個。的までの距離は3〜4m、的の高さは1.5〜2mです。
ハンガリーの騎射は9m離れた1つの的に向かって3方向から10本以上もの矢を放つため馬のスピードは遅いですが、その分矢は早打ちで実戦的です。
日本の流鏑馬は戦う要素より姿勢や型を大切にしているため矢を放つ動作には時間をかけてなるべく美しく見えるようにします。弓の長さや打ち方などいろいろなことが真逆でとても新鮮に思いました。
カッシャイ先生の牧場では馬は敷地内に放し飼いにされていて、訪れた人々はそれを特に珍しくもない様子で過ごし、自然に馬と触れ合っていることに驚かされ、人と馬の距離がとても近いことに感激しました。馬に乗る時も鞍や銜(ハミ)など馬の負担になるものをなるべくつけないと聞き、遊牧民らしい考えだなと微笑ましく思いました。
日本は昔、馬は武将しか乗れないような時代があったためその名残なのか、乗馬は敷居が高いものと思われがちかもしれません。もっと多くの人々に流鏑馬も馬術も興味を持ってほしいという思いを込めてこのレポートを締めくくりたいと思います。またいつの日かハンガリーを訪れる日があることを心より願って…。
(はやさか・まりえ)
Web editorial office in Donau 4 Seasons.