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東京で初めて「五塊の雲」の中で見た世界
Cseh Dávid


 私は今年の2月に初めて東京に行きました。4日間しかこの日本の首都で過ごせませんでしたが、面白くて、素晴らしい旅でした。明治神宮や皇居の東庭を見たり、渋谷や銀座の人ごみの中を歩いたりするのは以前から私の夢でしたが、はじめて東京の賑やかさの中に立った時はまるで信じられませんでした。中でも、私にとって一番大きい影響を与えたのは宝生能楽堂で見た五雲会です。どうしてでしょうか。

 能楽は日本の古い伝統的な芸術です。今日の観客には大変難しい演芸ですが、中世の時代と禅の美学の美しさは、みんな理解できなくても感じることができます。謡(うたい)の音楽は厳かで、ダンスは抽象的で、リズムは非常に遅くて、すべてが夢のような、時間がない無形の世界を表しています。私は長い間この演芸に強い興味があったのですが、今回の旅で初めて本物を自分の目で見ることができました。世界中で一番有名な観世流ではなく、宝生流の演技を見ました。それは五雲会という一日がかりの特別プログラムで、「絵馬(えま)」、「兼平(かねひら)」、「吉野静(よしのしずか)」、「船橋(ふなばし)」という能の演目に加え、「盆山(ぼんさん)」と「富士松」という狂言もありました。
 ところで、どうして五雲会というのでしょうか。その理由は、宝生流のシンボルが、五塊の雲だからです。宝生流で能の勉強をしている生徒たちは雲を扇に描きます。五雲会はトレーニング中の能楽者の勉強会として始まったもので、現在も若手を中心とした演能会です。私が見た2月18日午後12時から午後18時までの舞台でも、4人の若い才能あるシテ方が観客に自分の芸を見せて練習していました。
 五雲会を見るまで、私はこのような勉強会があることを知りませんでした。上達したいと考えている若手にとって役に立つ、とても大切なことだと思います。みんなまだ自分のスタイルを磨いている途中で、どのような能楽を演じたいかと自分自身に問いながら舞台に立ちます。能の観客は20~30年前からどんどん少なくなっているので、五雲会ではわかりやすい能も上演することで、新しい観客を能の世界に誘っています。五雲会のプログラムでは四つの演目それぞれについて難しさのレベルも書いてあります。
 この宝生能楽堂で過ごした6時間はとても面白かったです。休憩は3回で、10分ずつしかありませんでしたが、能が好きな人たちと一緒におにぎりを食べたり、お茶を飲んだりできたのですごく嬉しかったです。また、能管の音を初めて生で聞いた時はびっくりして、他の世界に持っていかれたような感じがしました。私は雲の中を飛んでいるみたいにウァーと思いました。

 この東京での4日間で、日本の首都は雲の中を飛んでいるところだと何度も思いました。皇居の東庭や浜離宮恩賜庭園に立った時もそういう気分でした。こういった伝統的な場所は、現代の東京のどんなに高いかわからないようなタワーに囲まれて、まるで空の中に浮かんでいるようでした。東京では、昔と現在と将来が全部一緒に生きていると思いました。
 だからこそ、宝生流の五雲会は大事なものです。昔の能と今の能に比べて、将来の能はどうなるでしょうか。600年前に生まれた能楽は、これからも生きて飛ぶことができるでしょうか。それとも高いタワーに囲まれて闇に消えてしまうのでしょうか。五塊の雲の中に、そして観客の心の中に飛んでいけますようにと、心の底から祈っています。

 
 
(チェ・ダーヴィド 演劇論、劇作家論、日本美学研究者)
 
 

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