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日本文化に見られる「百鬼夜行」の現象
Nagy Dóra


 私が初めて日本の民話を聞いたのは子どものときでした。母が寝る前に「さるかに合戦』という話を読んでくれたからです。ハンガリー語で読んでくれたので、それが日本の民話だと知らなかったのですが、ハンガリーのテレビのおかげで9歳になるともう日本のテレビアニメのファンになりました。色々なシリーズを見て、日本における話し方や書き方、文化、学校で着る服までハンガリーのと全然違うということを発見しました。「日本ってすごい!同じ地球に存在しているのに、まるで別の世界みたい!」と考えて、日本に惚れこみました。私は絶対に日本語を勉強して、日本と関係ある仕事をしたいと決めました。それから数年が経って、
私は《自分》を探したり、その決めた道を迷ったりしたけど、結局ここにいます。エルテ大学の日本学科の3年生で、もう卒業論文も書きました。
 私が日本に興味を抱くようになった理由は、ただハンガリーと違うということだけではありません。日本の様々な民話や伝説、昔話、神話などを読んで、その神秘的な生き物についても興味がわきました。水に住んでいる亀のような河童、山の森にいる強い天狗、家を守る座敷童子。そして、それ以外にもいくつかの特別な妖怪のおかげで、私にとって日本全体が神秘的な国になりました。ですから、卒業論文も妖怪について書きたいと思いました。たくさんの話を読みましたが、どれも非常に面白くて、素晴しかったので、どの妖怪をテーマとして選んだ方がいいか決められませんでした。しかしある日、「百鬼夜行」という現象についての記事を見つけました。この現象では1人の妖怪だけではなくて、多くの妖怪が参加しています。それで、私は「百鬼夜行」を卒業論文のテーマにしました。
 さて、「百鬼夜行」とは何でしょうか。漢字を見たら大体想像がつきます。「百鬼夜行」は大勢の様々な妖怪が夜の間に祭りのように一緒に行列する現象です。
 この現象が日本の文学に最初に出てくるのは、11世紀の『大鏡』という歴史物語です。この物語には藤原師輔が妖怪の行列と出会ったということが書いてありますが、現象については、恐ろしかったということ以外には何も述べられていません。行列は同時代の色々な説話や日記にも登場しますが、やはり参加している妖怪の外見や行列の特徴については何も書かれていません。しかし、平安時代の「百鬼夜行」が出てくる文献には共通点があります。それは、現象と出会った人はみんな藤原家の人だったということです。
 行列に参加している妖怪の外見についての記述が出てくるのは、12世紀からです。説話集や物語集で、化け物の色々なこわい特徴が述べられています。例えば手三つ、足一つ、目一つの鬼が行列に参加していると書かれています。
 中世になると現象についてもっとよくわかるようになります。「こぶとりじいさん」という昔話について聞いたことがある方は多いと思います。顔に瘤がある爺さんが鬼たちの宴会を見て、一緒に踊り始めました。鬼たちはその踊りが気に入ったので、爺さんが次の日もまた来てくれるように、瘤を取ってあずかりました。
 実は、その宴会が「百鬼夜行」でした。現代でもアニメや絵本で有名なこの昔話ですが、中世の時点でも、鬼たちは肌が赤、または黒い色で、頭に角があった、という記述があります。でも、私が参考にした中世の文献で一番面白いと思っているのは、『拾芥抄』という百科事典と、『暦林問答集』という方位と暦に関する本です。ある論文でこの2冊に百鬼夜行が出てくるということを読んで、実際に出てくるところを自分で見つけて、大学の先生の協力を得て翻訳しました。この中では、「百鬼夜行」が行われる日と、妖怪たちを脅しつける和歌が書かれています。お化けの行列が現れる日は、子、牛、巳、戌、未、そして辰の日の夜です。妖怪たちを脅しつける和歌は、一つの文字以外はカタカナで書かれています。「カタシハヤ・エカセニクリニ・タメルサケ・テエヒアシエヒ・我シコニケリ」。意味は何だと思いますか。実は、もう誰も知りません。色々な説がありますが、元の意味はもう失われているそうです。
 ここまで文献について書きましたが、「百鬼夜行」は様々な絵にも登場しました。一番古く、そして同時に一番重要なのは「百鬼夜行図」という16世紀の絵巻です。この作品には数人の恐ろしい妖怪が描いてあり、中には「付喪神」という妖怪もいます。「付喪神」とは百年以上使われた色々な道具や服、楽器に神や魂が宿って、それが動けるようになったものです。どうしてこの絵巻が一番重要かというと、これ以後「百鬼夜行」について描かれた絵のほとんどはこの作品の妖怪を真似したものだからです。そして、これ以降の絵には、妖怪だけではなくて、他の共通点もあります。例えば、鬼たちは太陽の光が苦手だということをご存知でしょか。絵巻の右側では、妖怪たちが走り回って色々ないたずらをしていますが、左側の端では朝日が光っているので、妖怪たちは逃げて、行列が終わっています。
 日本の妖怪文化はハンガリー人にとって今まで知らなかった神秘的な世界を見せてくれます。そして、私が卒業論文のために日本人を対象にして作ったアンケートによると、これはハンガリー人にだけではなくて、多くの日本人にも不明な世界のようです。なので、最初はだれにとっても恐ろしく見えるかもしれませんが、本当は怖がることなんかない・・・かもしれません。
 
 
(ナジ・ドーラ)
 
 

Web editorial office in Donau 4 Seasons.