日本にいる時よりも慌ただしい滞在でしたが、オフ日にはハンガリーの友人たちが集ってくれました。どこのレストランよりも美味しいエディットの手料理。そしてレスリング界の英雄コヴァーチ・シャーンドル・パールの弟にして、ケチケメートの偉大なる詩人コヴァーチ・イシュトヴァーン・ヨージェフが揃えば、いつものようにパーリンカを飲み交わし、トランシルヴァニアへ想いを馳せて、詩が詠み上げられます。「詩は美しい音楽だ」と彼は言います。純子の父はハンガリーの多くの詩を訳しましたが、中でもイシュトヴァーンの詩訳は本にもなりました。純子がハンガリーのファミリーから「ラーニャ(娘)」と呼ばれる由縁です。
帰国前日の4月4日は大使館より晩餐のお招きをいただき、大使公邸にてすばらしい交流の時を持ちました。先のロンドン五輪で柔道66キロ級銀メダルを獲得したミクローシュ・ウンクバリ選手と、弟アッティラ選手ともご一緒しました。1964年の東京オリンピック以来、ハンガリー柔道界と深く関わってきた純子の父ですが、亡くなってなお生き続けていることに感慨がありました。公邸に新しく入ったばかりのピアノを弾き初め、ハンガリーゆかりの作品を聴いていただきました。これからも音楽とスポーツの両面で、日本とハンガリーの橋渡しができれば幸いです。
ハイライトで振り返るだけでも50年分の歴史を思い返すようで、今回の一つずつの出来事や邂逅に、多くの人生を重ねて見てきたような気がします。外交官になりたかった夢をピアノに託して、少しずつではありますが、私にしかできないことを進めていきたいと思っています。絶えず困難はありますが、家族やハンガリーの友人たちの愛に支えられています。今回もプレゼントされた手作りジャムやワインの瓶をいくつも詰めて、長い帰国の途につきました。 |