この地域は、東側の大きくて長い角
の鹿と西側の小さいが枝分かれの多い鹿が交わる場所で、ポイントの高いトロフィーが集まっている。
戦利品としての鹿の角は、重さ、大きさ、長さ、太さ、両角の幅、色、枝数によって評価されポイントが付けられる。獲得したトロフィーには、全てに通し番
号とポイントが記され、一定のトロフィー費用も支払わなければならない。これは、角自体の価格ではなく、撃った行為に対して支払われるもので、最高水準の
ものを仕留めてしまった時は、国宝となり、私物化できないこともある。料金は車一台分に相当することもあるので(撃つ寸前には、必ず専門ガイドに撃ってい
いかどうかの判断を得るのだが)、トロフィーの金額も確認することをオススメする。
この品質管理のシステムはおもしろくて、集団で試みるブリーダーのような仕組みになっている。シーズン規制
は、トロフィー基準も配慮し組まれている。猟師たちは、規定頭数内で、「不良品」を撃ち、いい角になる子孫を残すようにしなければならない。この判断には
熟練を要す。角は毎年生え変わるごとに、前に突き出て、重心は根本に下がっていくので、頭を垂れる姿勢や角の枝分かれの位置などが判断材料だそうだ。
特異な価値観はさておき、狩の方法は、おおまかに分けて四種類。1.見張り台で待つ、2.追いたて役と仕留め役を決めての猟、3.
馬車・馬ゾリの狩り、そして主人の一番好きな4.音や風向きに気をつけ、一人で静かに森を歩いて動物を探す方法。確かに、忍び足が上手い。
冬によく行われる、多人数で四方から取り囲んで獲物を追いつめる巻狩りなどでは、特有なセレモニーも存在す
る。鹿、猪、きじ、うさぎ、どんな狩りでも大抵同じで、明け方、始まる合図にホルンが吹かれ、あいさつ、説明がされる。もちろん狩り前日にも会合は開か
れ、まるで軍事計画のような配置図、各自の射程距離・方角の範囲地図が渡されている。これらの手順は全て法律で決まっていて、事故が起きた場合は、この辺
の条項も調査される。
夕方の終了パーティーでは、広場に、決まったポーズで獲物が並べられ、四つ角には焚き火。獲物たちは、最後の食事という意味で、緑の枝が口にくわえさせ
られ、もみの木の枝で額縁されている。片側に狩人(ゲスト)、反対側にガイド猟師が並び、ホルンの演奏で式が始まり、帽子を取り敬礼する。
帽子には、血液のついた葉枝やキジの尾羽が飾られていることもある。葉枝は、ゲストが鹿を仕留めた際、ガイドにより枝先に獲物の血液がつけられ、それを
帽子に差して祝われた印。初めて猟師の仕事を果たした(獲物を仕留めた)狩人が、獲物の上に伏せ、初心忘るべからず、と木枝でお尻を叩かれるパフォーマン
スもあるが、ひとつひとつが長い歴史の中で出来上がった儀式で、自然への敬意が払われている。
一方、日常の作法はごくシンプルで、銃を準備し、狩日誌に、名前と時間、(協会領域内の)これから狩に行く区域を記入し、森へ入る。仕留めたら、内臓だ
けはその場でさばき、頭と足と一緒に森へ返し、獲物に通し番号のタグを付け、冷凍コンテナへ運ぶ。持ち帰りたい場合も同じで、一度冷凍コンテナで計量、登
録し、肉を購入してから自家用冷凍庫へ入れることができる。
主人は、日本でも猟を経験したことがあって、日本らしい仲間を味わうことができたいい思い出、と言っている。そして、もし、ここで経験したい方がいらっ
しゃれば、いつでもお待ちしています、とのことです。
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