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灯火とともに−ヴェ ルディ「レクイエム」
坂井 圭子

 
 大学時代に歌ったヴェルディのレク イエム。好悪両面において「華麗なレクイエム」と言われているが、私はこの曲が大好きだ。Lacrymosa(涙の日なるかな)の出だしでは、涙してしま う。その旋律は、ずっと頭の中を駆けめぐる。「レクイエム」はローマ・カトリック教会の中心的典礼である「ミサ」曲の一つで、個人の縁故者の希望により、 個人の死の直後かあるいはその忌日に行う「死者のためのミサ」のことで、墓に眠っている使者の霊が、最後の審判の日に天国に救い入れられるように祈るもの とされている。
  11月1日は、ハンガリーでも万霊節(先祖を敬う日)である。毎年、ヴェルレクが演奏されていることは知っていたが、そのヴェルレクを小林研一郎氏の指揮 で聴くことになった。オーケストラが入ってきた。合唱団が二階正面席にスタンバイした。会場の光が落ちて、スクリーンが降りてきた。マエストロ小林の登場 である。その手に導かれるようにチェロのかすかな音が響きだした。第7曲目のLibera me(我を許し給え)・・祈?文朗唱が終わると同時に合唱団が手にしていた灯火が小さくなっていった。静けさが漂った。私は最後までマエストロの魔術の中 にいた。
  この日のヴェルレクは、3月11日の東日本大震災のためのチャリティーコンサートだった。芸術宮殿は、ハンガリーの人々で埋め尽くされていた。大きな拍手 は、被災者への「がんばれ」との励ましだと私には感じられた。
(さかい・けいこ)
 
 

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