Topに戻る
 

 
 
 
     
 
 
 
家 族でつないだバトン
木村 晶子

 
 2009年春、またこの季節がやっ てきた。ハンガリーに来て迎える4度目のマラソンシーズンだ。ただ今までと違うのは、今年が最後の年だということ。おそらく9月のナイキブダペストハーフ マラソンが最後の大会になる。走ることが楽しくなった今、たくさんの思い出が詰まったハンガリーを離れるのは残念な気がするが、それは仕方のないこと。そ れならば残りの大会を思いっきり満喫しようと考えるようになった。
  今年のもうひとつの目標は、家族全員でのマラソンリレー出場。ちょうど1年前のT-Comの3.5Kmに家族全員で出場した。4歳の息子にとっては初めて の経験だったが、歩かず完走出来たので、また家族で大会に出ようと決めていた。
 
ともに走ろう
 私は毎日走らないと落ち着かないというランニング中毒になって いない。練習量が多くなると足への負担が大きくなり、2年前のハーフマラソンで痛めた膝の調子が悪くなる。走れなくなることが一番怖いので、普段のトレー ニングは週に1〜2回、マルギット島の5.2Kmのランニングコースを体調に合わせて1周〜2周したり、自宅周辺の市街地を1時間程度走ったりするだけ。 ハーフマラソンのレース前には、2〜3度、15Km走を行う。練習がマンネリ化しないように、週に1回程度ジムに行き、ステップマシーンやその他のマシー ンを使い、気分転換を図っている。
  夫も学生時代はスポーツマンでバスケットボールや少林寺をやっていたが、社会人になってスポーツから離れてしまった。スキーやダイビングは夫婦共通の趣味 だが、子供が産まれてからは行く機会がめっきり少なくなった。何かのきっかけががあれば、また打ち込めるスポーツが見つかるはずという思いもあって、今年 のマラソンリレーに家族で参加することを提案した。夫の本心は定かではないが、参加しても良いよとのことだった。大会のちょうど1週間前、夫が汗だくで帰 宅した。「どうしたの」と聞くと、「駐車場から家(日本式4階)まで駆け上がって来た」という。本当はマラソンリレーに向けて、仕事が終わり帰宅した後、 自宅周辺を走りトレーニングをしていたのだ。
 
家族で走ったミニマラソンリレー
 5月17日に待ちに待ったK&Hマラソンリレー大会が 開催された。国会議事堂の周りを走るコースである。家族で出場するミニマラソンリレーは、1人2.1Kmを走り、3人でバトンをつなぐ競技。走る順番をど うしようか、夫と相談した。スタートは大人数が一斉にスタートするので子供には危ないし、私はミニマラソンリレーの後に7Kmx3のリレーにも出場するこ とになっているので、私が第1走者となり、第2走に子供を走らせ私が一緒に伴走することにした。密かに自主トレをしていた夫にアンカーを任せることにし た。
  満を持して5月17日の朝を迎えた。会場に到着すると「これから走るんだ」というワクワクした気持ちと少しの緊張で私のやる気のスイッチが入った。
  競技で2.1Kmという短い距離を走るのも、マラソンリレーの第一走も初めてで、いつに無く緊張していた。走る前は1Kmのペースをどうしたら良いのか 迷っていたが、スタートしたらいろいろ考えている暇はなかった。案の定、周りの早いペースにつられ、最初の1Kmを約4分/Kmで通過した。呼吸はきつ かったが、足のほうは大丈夫だったので、ペースを意識せず、とにかく前に前について走った。スタート地点に戻ると、第2走者の息子がかなり興奮した様子で 待っていた。私がバトンを渡すなり、息子がダッシュしてしまった伴走の私にはダッシュする気力はなく、後ろを振り返りながら走る息子に「すぐに追いつくか ら、前向いて走って!」と叫んだ。スタートから400mほどで息子に追いつき、そこから一緒に走った。「僕の心(心臓)が止まりそうだ〜」と何度も叫ぶ息 子に、「どんなに遅くても止まらず走り続けようね」と励まし続けた。途中歩くことなく、思ったよりも早いタイムで、2.1Kmを完走した。そして、第3走 者の主人にバトンをつないだ。
  夫もがんばり、私たちKimura Family チームは、32分58秒という好タイムでゴールすることが出来た。20チーム近く出場した日本チームの中で、4番目のタイムだった。予期せぬうれしい結果 だった。ハンガリーでの家族の思い出がまたひとつ増えた。
 
リレーの掛けもち
 ミニマラソンリレーが終わり、今度は7Kmx3のハーフマラソ ンリレーに出場するため、日本人会事務所に戻った。「もう十分にアップ(準備運動)してるから、問題ないね〜」と盛田さんが冗談をおっしゃっていたが、す でに4Km走った脚には若干疲労が残っていた。
  11時にマラソン/ハーフマラソンリレーがスタートした。500チームが一斉にスタートする。私の目標タイムは35分。1Km5分のペースになる。無理に スピードを上げず、確実にバトンを繋ぐ走りをしようと思った。まだ5月なのに陽射しが容赦なく照りつけ、思いのほか体力を奪われたが、キロ5分のペースで 安定した走りが出来た。この大会への出場はこれが最後という思いがあったので、王宮や鎖橋などの景色を目に焼きつけながら走った。7Kmを35分20秒ほ どで走った。もう少し速く走れたと思うが、ミニマラソンリレーで2周した後だから、これは納得の行くタイムである。私の相棒のハンガリー人女性は第2走者 と第3走者を兼ねていたから、1人で周回コースを2周、14Km走った。二人でつないだ私たちのチームは1時間50分53秒でゴールした。ハーフマラソン リレーに出場した女性39チームの中11番目のタイムだった。
 
あと1レース
 ハンガリーでの最後のK&Hマラソンリレー大会が終 わった。走り終わって、夫から「最後だから国会議事堂をバックに写真を撮ろう」と言われて、自然と涙があふれてきた。走るきっかけを与えてくれたハンガ リーの生活も残すところあと数ヶ月。寂しい気持ちに襲われた。
  ハンガリーでのランニング生活の締めくくりは、ナイキブダペストハーフマラソンと決めている。2年前の初ハーフマラソン挑戦でみごとに惨敗。両膝も痛め苦 い経験をした。去年の大会は、順調な練習を積むことができ、故障には十分に気をつけることができたので、目標タイムには遠く及ばなかったけれど、納得の行 く走りが出来た。そして今年。帰国の準備と重なるので練習に不安はあるが、悔いが残らないようにハーフマラソンを走りきって帰国したいと思っている。
 
 

Web editorial office in Donau 4 Seasons.