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アウシュヴィッツを訪れて
みどりの丘日本語補習校|高等部 望月 海央

 
 秋休みに僕は、家族と一緒にポーランドにある強制収容所、アウシュヴィッツを訪問しました。行ったきっかけは、母がどうしても僕にアウシュヴィッツを見せたかったからです。遠くて寒いポーランドに、最初は行きたくありませんでした。しかし、アウシュヴィッツは歴史的に重要な場所ですし、世界遺産でもあるので一生に一度は見に行ったほうがいいと思い直し、行くことにしました。
 10月のポーランドはハンガリーの冬よりも寒く、上着や下着などを4枚も着ていたのに、まだ寒かったです。秋に4枚着ていても寒かったのに、冬でもペラペラの服で一日中外で働かされたユダヤ人たちは、とてもつらかったに違いありません。
 収容所を外から見ると中でどんな恐ろしいことが行われていたか、想像することはできません。敷地に入るとたくさんのレンガでできたバラックがあり、木も植えられて道もしっかりしていました。これは刑務所として見せかけ、大量虐殺が行われている強制収容所だとわからないようにカモフラージュするためだと言われています。
 アウシュヴィッツで一番衝撃的だったのはナチスに取り上げられた大量の遺品を見たときです。靴,メガネ、食器などが数えられないほど、部屋いっぱいに積み上げられていました。ある部屋には返してもらえると思ったのか、名前が書かれているカバンが積み上げられていました。しかし、これらの荷物は持ち主には返されることはなかったのです。
 ここにはヨーロッパ中から130万人の人たちが連れてこられたそうです。ユダヤ人だけではありません。ポーランド人、ロマ、ソ連軍人、そのほかにも同性愛者、精神・身体障害者、反独分子の人々も連れてこられました。ハンガリーからは43万人のユダヤ系ハンガリー人が連れてこられました。これはヨーロッパ各国からの連行者の中で一番多い数字でした。
 収容者の130万人のうち110万人ほどが殺されたといわれています。
 アウシュヴィッツにはアンネ・フランクが短い期間ですが収容されていました。アンネの日記はハンガリーではそれほど知られていないので、今まで聞いたことがありませんでした。しかし、アウシュヴィッツに行き、興味を持ったので、読んでみることにしました。
 アンネの日記は、ナチス統治下のオランダで暮らしていたアンネ・フランクと言うユダヤ人少女が付けた日記です。
 
 
 日記には13歳の少女の視線から見た世界が書かれています。素直な気持ちや、感情が表現されていて、ナチスから隠れながらいつ捕まるか、ビクビクすごす毎日が伝わってきます。彼女は平凡で幸せな日々を送ってきましたが、急にその人生が変わってしまいました。将来の希望に満ち溢れた生活から、ナチスの迫害を受け、何年ものあいだ、家から一歩も出られない生活をしなければならなかったのです。その不自由な生活にもかかわらず、アンネは希望を捨てることなく、強く生きて行ったところに感心しました。結局、アンネは、ベルゲン・ベルゼン収容所に移送されて、チフスで病死してしまいましたが。
 アウシュヴィッツでは中谷さんという方にガイドしてもらいました。彼はよく「想像してみて下さい」と言いました。文化的にも、経済的にも発達していて、民主的な政治が行われていたドイツで、何故ユダヤ人を迫害するなどということが行われたのか。多くの人は事なかれ主義でヒットラーについたのが原因かもしれませんし、無関係の人たちは無関心で何もしなかったのにも原因があるかもしれません。
 それからまた、中谷さんは言いました、「想像してみて下さい」。収容所のすぐ隣にはアウシュヴィッツの所長ルドルフ・ヘスの家があり、そこに家族みんなで住んでいました。彼はまじめで教養のあるお父さんでした。しかし、国のために尽くし、命令通りに従って何千、何万の人殺さなければならなかったのです。極悪人でもない普通の人が、戦争になれば、無実の人を殺すようになってしまうのです。
 ここで起きたこの悲劇は今の時代に生きる僕らの責任ではありません、しかしこの悲劇を再び起こさせないという責任はあります。今僕のできることは世界中で何が起こっているか、ニュースや本などを読み無関心にならないこと。現在と過去を知るように努め、善悪の判断力を身に付けることです。
 最初はアウシュヴィッツに行きたくありませんでした。しかし、今は行って本当に良かったと思っています。インターネットや書籍で読むだけでは、分からないこと、感じられないことを体験できたからです。もしアウシュヴィッ
ツに行く機会があったらぜひ中谷さんのガイドを聞いてみてください。

(もちづき・みお)

 
 

Web editorial office in Donau 4 Seasons.