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日本人学校補習校その他日本語教 育
 
     
 
 
 
体験入学 に思う
アシュタロシュ真美

 
   「俺もみんなと同じランドセルが欲し い!」
昨日まで自分の事を「ケンデも〜」なんて言っていた息子が、夕飯の席で突然そんな事を言い出した。思わず「”俺”だってぇ!?」と大笑いする私と両親を横 目に、口を尖らせた息子がまた催促する「黒ね!黒のランドセルだよ!」

  普段はここハンガリーで補習校1年生に通う息子は、今回初めて日本の小学校へ体験入学した。三月に起きた未曾有の大震災の影響を考えると、本当に日本へ行 くべきか否か、直前までとても悩んだ。
 
 しかし、年に一度しか会う事のできな い年老いていく両親や祖母、兄妹、友人達に会いたい、そして子供達の「日本のおじいちゃん、おばあちゃんの所へ行って日本の小学校に行きたい!!」という 言葉が私の背中を押してくれた。行くと決まってからは、インターネットで震災の影響を毎日チェックし、夫とも話し合い、納得する形で行く事となった。
  日本についてからも、福島第一原発の事故に伴う放射線放出のニュースが毎日の様に流れた。しかし、実家のあるつくば市では健康に影響を及ぼす数値や特別対 応の必要がないレベルであるとの事、また親が必要以上に神経質になり過ぎて子供達に不安を与えない事が大事なのではないか、と考え小学校体験入学を開始す る事にした。

  時差ぼけも収まった一週間後、校長先生に挨拶に行った。長女の乃笑は既に昨年体験入学を経験している為、弟に「給食が美味しいよ!」「体育でいろんな事や るんだよ」と興奮度を上げる様な事を言っていた。初めての校長室では、練習通り(?)の挨拶が出来、無事に入学許可を得る事が出来た。

  初日は全校生徒の前で挨拶をし、たちまち有名人に。集団登下校では、皆とお揃いの黄色い帽子にランドセル、正にピカピカの1年生。雨にも負けず風にも負け ず、そして暑さにも負けずに往復40分の道程を毎日歩いた。5時間授業があり、3時半ごろに下校すると疲れているにも関わらず、家にランドセルを放り投げ て近所の公園へと駆けて行く。そこには学年の違う子供達が、宿題を終えて集まりサッカーや野球、水鉄砲等で遊びだす。ハンガリーで流行っているコマを持っ ていくと、寄ってきては「飛行機で何時間で行けるの?」「”こんにちは”って言ってみて」、「俺、英語話せるよ」(みんなハンガリーでは英語が母国語だと どうしても思ってしまう)と、公園が子供達にとって異文化交流の場となっていた。
掃除の時間も毎日あり、自分達で教室や廊下、トイレ等を綺麗にするといった事が、ハンガリーではない経験であり、新鮮だった様である。張り切り過ぎて雑巾 がけの最中、勢い余って顔面を柱に殴打という事もあったが、そんな事は諸ともせず、笑顔で怪我を自慢している息子は少し逞しくもあった。そして、娘にとっ て何と言っても楽しかったのがプールの授業。みんなが紺か黒のお揃い水着に胸には名前のゼッケンという事に少々違和感を持ちながらも、思い切りプールで楽 しんだ。

  社会科の「町探検」という授業では、保護者もボランティアとして一緒に参加した。老人介護施設でリハビリ体操をしたり折り紙を教えてもらったり、また国際 貨物ターミナルという所では、大きなコンテナを持ち上げるフォークリフトに乗せてもらい大興奮、税関の仕事も説明してもらい知識も増えた。

こうして毎日生きた日本語の中で生活するという事は、私達親子にとっても大変貴重な経験であり、担任の先生も 子供達の興味や探究心をどんどん伸ばしてくれた。こういう経験をしてみようと飛び込んで行けたのも、普段ハンガリーの補習校で温かく見守って下さる先生方 や保護者、お友達が居るからだと思う。
宿題が嫌であの手この手を使って逃げ出す長女も、補修校を辞めたいと言い出した事は一度もない。補習校ではバイリンガル、あるいはトライリンガルの児童 達。そして平日は現地校やインターナショナルに通い、習い事もあるのでどうしても国語の学習は後回しになってしまう。皆、不得意言語が国語かもしれない。 年齢も違う。それでも休み時間には校庭にでてきて一緒に遊び出す。いきいきとして楽しそうな姿は見ていてとても微笑ましい光景である。同じような境遇同士 で、同じ悩みを持ちながらどこかで励まし合い心が繋がっているのかもしれない。

 これらの経験が、今回の体験学習で日本の学校に適応できた理由で合った様に思う。「日本で小学校に通いたい、おじいちゃんおばあちゃんに逢いたい」とい うのは、彼らにとっての動機ではあるが、そこから大きな芽を伸ばせる様にしてあげたいと思う。そしていつか、「あの時、補習校に通えて良かった」、「小学 校の体験入学が面白かった」等と言ってくれたら本当に嬉しいと思う。その時はきっと、自分のランドセル姿を鏡に何度も何度も写す、笑顔の息子を思い出すだ ろう・・・。

 

 
 

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