肋木は、歩行訓練やつかむことの練習などに必要な様々な用途に利用できる。そのため、本数が多い場合、それを
利用することで、活動することが容易になる利点がある。また、椅子に落ち着いて座ることにも気が配られていた。
足が地面に着くように、足が床に届かない子どもには、足下に台3を置いていた。踵が少しでも浮くと、研修生や養護者が足を床につけさせていた。このような
行動訓練や座ることの指導を通して、自分で自分の体をコントロールすることを学習し、落ち着いた状況を作ることで、集中して子どもが授業に取り組める状況
を生み出していた。
研修の担当者が話してくれたことで印象的なことが2つあった。(1)自分でできることは自
分でする。自分でできないことは仲間が手伝う、(2)保護者とのコミュニケーションを大切にすることであった。ここの子どもたちは、お互いができることが
違う場合が多い。基本は自分のことは自分でする。しかし、できないことに関しては、仲間が手助けしてあげることで、できるようにしている。そのために、行
動するときには集団4で行うことを基本としていた。これは、学校を卒業したときの社会の中で行われていることと同じである。このようにしていくことで、自
立の意識や人を助ける意識を育成している。また、保護者とのコミュケーションは、有効なCEを行っていくためには欠かせないことである。子どもたちの障害
の程度によっては、保護者が教室の中で子どもを手伝う場合もある。また、この学校には寮があるが、週末には子どもたちは帰宅したり、毎日通学してくる子ど
もたちもいる。このように子どもが家にいる時に保護者が子どもを指導する方法は、学校と保護者が話をしながら決めていく。そうすることで、学校と家とで同
じ指導が可能となる。
日本において、特別支援学校のボランティア活動や、研修を経験してきた。いずれの学校も同じように、特別に整備され、障害を持った子どものための準備が行
き届いた学校のように感じてきた。逆に言えば、このような学校でないと、障害を持った子どもが一日の活動をすることに困難が生じると感じた。しかし、今回
の研修校では、これまでとは異なる印象だった。それは、ハンガリーにある障害のない人たちが行く学校の設備とほとんど同じと感じたことだった。確かに肋木
などは、普通の学校の廊下にはないだろう。しかし、校内の廊下の広さや教室の設備などのハード面は、本校の隣の現地校や補修校が借りている校舎とほとんど
変わらない感じであった。このことから、こちらのどんな学校でも、ちょっとした工夫で誰もが通える学校の良さが出てくる気がした。このような工夫は日本の
障害を持たない子どもの学校でも利用できそうに感じた。また、この学校の2つの方針は、日本の学校教育の中でも取り入れられている事である。
世界に先駆けた1945年という早い時期からハンガリーにおいては、CEがなされてきた。このような障害児教育の原点と考えられるものの一つを知ることが
でき、そこから、これからの日本の教育について教育の原点とも言われる特別支援教育という立場から考える機会があったことを幸運に思う。
終わりに、今回の研修の機会を作って頂いた川口校長、向井マリア氏、情報を提供していただいた坂井副校長、日原美由紀氏、通訳をして頂いた桑名一恵氏に感
謝いたします。
注
1.ハンガリーの特別支援学校は、日本と同様に肢体不自由や盲・聾のように分かれている。脳性麻痺などの子どもたちが行くのは肢体不自由の特別支援学校で
ある。ただし、重度の肢体不自由である場合は、学校ではなく、病院のようなところにある教育施設で対応している。
2.日本の学校の体育館にあるはしごのように木製の棒が並んでいるもの。
3.この台の形状は箱型のものや、足を左右に分けて置けるようになっているものなど子どもに合わせた形になっていた。
4.集団で行動するのもCEの方法の1つ。
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