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ハンガリーで医学への挑戦
ペーチ大学医学部
伏田 昌洋

 
   私が医学の道に進むことを決心したのは高校3年生の頃でした。当時の私は特にこれがやりたいと言った夢もいだいておらず、進路について案を出しては親と衝突しながら話し合っていました。しかし代々続く医者の家系に生まれた長男の道は一つです。親には最後まで医学部に進んで欲しいと打診され、母親の身に起きた痛ましい事故の記憶もあり、自分でも納得した上で大学の医学部に進学することを決心しました。
  そこでなぜハンガリーか。それは必然でした。私は父親の仕事の都合上幼少時代からこれまでの人生の半分以上を海外で過ごしてきました。小学校生活をシンガポールの日本人学校で、高校生活はメキシコのインターナショナルスクールで計十年以上を過ごしてきました。
そのため身も心も完全に海外の暮らしに順応していましたし、日本の医学部に入るため厳しい受験戦争の中へ身を投じることは到底考えられませんでした。 また三つ上の学年に姉が在籍していたこともあり、迷うこと無くハンガリーの医学部進学コースを受験しました。
  現在ペーチ大学の一年生ですが、ここまでくる間に沢山の困難がありました。高校で化学と物理の両方を選択していなかったため、去年ブダペストで在籍していた医学部進学コースではこれら二つの科目に相当苦しめられました。また新たな土地へ来れば言語もまた違うので、ハンガリー語も覚えなくてはいけません。言語は時間の経過と共に身につくものと思っている私には新しい言語を学ぶことさえも苦に感じてしまいます。入学試験直前にもやはり理科系二科目に苦しめられました。切羽詰まった私は既に合格が決まっていた同期の友人の家に泊まりこみで勉強を教えてもらい、見事合格することが出来ました。彼なくしていまの私は存在しないと思います。大学に入ってからは環境がガラっと変わったので、勉強のみならず大学のシステムに慣れるのも一苦労でした。そんな中先輩方から頂けるアドバイスは、右往左往している我々新入生には何よりも助けになったと思います。相変わらず大学の指導方法や単位の問題などに踴らされていますが、無事進級できるように毎日コツコツと勉強しています。
  しかしペーチでの暮らしは辛いことばかりではありません。ペーチは中世ヨーロッパの面影を所々に残した小さな都市といった印象で、学校へ行ったり買い物に出かけたりする際に街を自転車で駆け巡るだけでも息抜きになります。学生都市なので街の人たちも外国人に理解のある人ばかりで、ブダペストで経験した素っ気無い対応とも無縁です。そんな街の雰囲気に惹かれてペーチを選びました。年に何度かある毎年恒例の学校行事も楽しみの一つです。それらの行事を通じて学年や国籍の壁を超えていろんな人達と交流を深められて友達も増えました。去年は日本人の学生同士で集まる機会もあったので、日本人同士のコミュニティも広めることが出来ました。
  勉強に関しては苦しい状況が未だ続いていますが、週に一度ずつある生物と解剖学のチューターにはだいぶ助けられています。学校で理解が十分でなかったことを質問できたり、テスト前にはテスト範囲の総復習ができて理解度の確認にもなります。
  テストが続いて辛い時期もありますが、暮らしていく上でストレスを溜めないためにも独自の息抜きできる方法を持つことは大事だと思います。私におけるそれは、料理と週に一度ある体育のバスケットボールです。時間に余裕のあるときに、少し手間隙かかるものを作って食べるのが何より幸せです。家族と暮らしていた頃とは違い家事から体調管理まですべてにおいて自分でしなければいけないのは大変ですが、医者になるための厳しい道を進むためにも試行錯誤は欠かせません。
  私はハンガリーでの留学生活で医学だけでなく、家族のありがたみや感謝の心、自己にかかる責任をも学んでいると思いました。親のもとを離れ、干渉されること無く自由に生活できますが、それと同時に今まで当然のように受けてきた親の恩恵に預かること無く自らを律して生活をしなければいけません。そういった点ではまだまだ未熟ですが、これからの大学生活六年を通して医者への道のりを歩みつつ、一人の人間としてレベルアップできたらと思います。
  最後に、これまで私が苦しい状況にいた時に助けてくれた友人や先輩方には心から感謝しています。狭い日本人ソサイエティの中で同じ志を持った友人の助けは一人暮らしの大きな支えです。私がそうであったように、私の代に続く後輩たちの支えになれるよう日々努力を続けます。
  ペーチ大学の仲間たちとはこれからもお互いに助け合い支え合い、共に夢に向かって精進したいと思います。
(ふしだ・まさひろ)
 
 

Web editorial office in Donau 4 Seasons.