子どものころから読書は好きでしたが、ハンガリーに来て、日本にいるとき以上に読書をしました。本を入手するのに決して恵まれた環境とは言えませんが、それがかえって私を本の虫にさせました。
 あまのじゃくな私は、ベストセラーといわれる本はあえて読まない、本は借りるより買うなど、ややこしいこだわりを持っていましたが、ここではそうは言っていられません。おもしろいと勧められた本は「食わず嫌い」することなく、ありがたく貸していただいて読むことになりました。小学生から保護者の方まで、児童文学も時代小説も本屋大賞も、勧められるがままに読んでみた結果、多少好みは違っても、多くの人がおもしろいという本は確かにおもしろい、という至極あたりまえの結論に至りました。ページをめくる手を止められない、という本にもいくつも出会いました。寝不足になるほど本に熱中してしまう、なんて幸せなことです。
 学校では、子どもたちもよく本を読んで、気に入った本を勧めあったりしています。「早く結末を知りたいけれど、もうすぐこの本を読み終わると思うとさみしい」、「読んでからAmazonのカスタマーレビューをみると、いろんな感想があっておもしろい」など、いろんな「読書あるある」が聞かれます。
 また、ハンガリーの方と、ハンガリー語に翻訳されている邦人作家の作品について話したのも楽しい思い出です。「友人に勧められてA Lost Paradiseっていう、日本の本を読んでいるわ。」「ロスト・パラダイス…??あ!『失楽園』!?」と、私はびっくり。「映画にもドラマにもなったよ」といったら、今度はあちらがびっくり。そりゃそうでしょうとも。また、学校事務員のエーヴァさんもかなりの読書家です。『スプートニクの恋人(村上春樹)』を読んでいたので、私も再読してみました。「どこまで読んだ?」といいながら、魅力的な登場人物について話が盛り上がったのも思い出深いです。
 ハンガリーの学校にはそれぞれの学年に応じた「課題図書リスト」なるものがあり、国の内外や時代を問わずいわゆる名作を中心にリストアップされています。映画や漫画化されたものを読んで済ます不届きな生徒もいるとは聞きますが、「世界文学全集」的なものをさして読まずに大人になってしまった私よりも、彼らの方がよく知っているのかもしれません。名作も読んでみなくては…。
 3年間のハンガリーライフはすばらしい体験でした。大変お世話になりました。
〜 花に嵐のたとえもあるさ さよならだけが人生だ 〜
 日本に帰って、本屋さんに行くのも楽しみの一つです。みなさん、よき読書ライフを!

(のろ・よりこ 日本人学校)