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感謝の1年
リスト音楽大学ピアノ科
包原 麻依子


   私は2014年2月よりリスト音楽院のパートタイム生としてハンガリーに留学し、もうすぐ1年が経とうとしています。12月のブダペストの町は、日ごとにクリスマスのイルミネーションで華やいでいき、とても素敵です。こちらでの生活にも大分慣れ、余裕もでてきたところですが、留学生活も残り1か月となってしまい、寂しさと名残惜しさが募ります。
 私は岐阜でのマスタークラスでファルヴァイ・シャンドール先生にみていただいたことがきっかけで、日本の大学院を1年間休学し、留学をすることにしました。
 一人暮らしも初めてで、不安でいっぱいのハンガリー生活が始まると、今まで自分がいかにまわりの人にお世話になって生きてきたかということにあらためて気づきました。最初は新しい環境に馴染めず、外に出るのすらこわくて色々とつまずいてしまうことが多く、生活するのに精一杯でした。けれども、ハンガリー、そしてリスト音楽院は私をたいへん温かく迎えてくれ、わからないことを親切に教えてくださったり、落ち込んでいる時に励ましてくれたり・・・その数々をすべて挙げたらきりがないくらいです。こちらでの生活に慣れるよう、支えてくれたまわりの方々、先輩、友人みんなのおかげで1つ1つ乗り越える事ができ、心から感謝しています。
 そのようにして生活も徐々に落ち着いていき、先生のレッスンも始まり、集中してピアノを弾くことができるようになりました。パートタイムは基本的に専攻のレッスンを受けるためのコースなので、レッスンがある日以外はほぼ自由で、たっぷりとピアノに向かうことができます。日本にいれば、時間に追われてしまうことも多いですが、そのようなことを忘れ、ただ音楽ができるこの環境は私にとって本当に貴重なものでした。
 学校では1日4時間練習室を使用することができます。祝日などで入れない時以外はほとんど毎日学校に行って練習していました。たっぷりあるはずの時間もあっという間に過ぎていきました。そこではハンガリーの学生だけでなく、様々な国からの留学生たちが練習していて、彼らの姿をみるのも私の大きな励みとなりました。とても楽しそうにピアノを弾く人、外まで演奏のエネルギーが伝わってくる人、軽々と難しい曲を弾きこなす人。どの練習室から聞こえる音も活気があって、本当に刺激的です。人種も違い、それぞれが持つ文化も言葉も違いますが、みんな真剣に音楽を磨いていて、自分もその中の一人として勉強できることを幸せに感じます。
 毎日ほぼ同じ部屋で練習していたところ、「ここに住んでいるの?」と冗談を言われてしまいましたが、こうして気軽に声を掛けてくれ、たとえお互いに話したことがなくても廊下ですれ違えばハロー!とあいさつしたり、とてもフレンドリーで、これがリスト音楽院の素敵なところだと思います。とくに印象的だったのは、練習室で前の人がよく”Have a good practice!”と声をかけてくれることです。日本でも頑張ってねという言葉をかけたりしますが、初めて声をかけてもらった時はとても新鮮で嬉しかったです。
 さて、ファルヴァイ先生には毎週1回レッスンを受け、いつも親身になってアドバイスをくださいます。先生はとなりでお手本をみせてくださることが多く、繊細な音からエネルギッシュな音まで、大変多彩な音色を持っていらっしゃいます。先生のような音が出せるようになりたいなといつも思います。
 今取り組んでいるリストのロ短調ソナタ。私の克服すべき要素がたくさん詰まっているこの曲を、先生が課題として与えて下さいました。なかなか思うように弾けず悩んでいると、先生が、「少しずつでいいんだよ。これはあなたにとってstrangeな感覚だから」と声をかけて下さいました。今までリストをあまり勉強したことがなかったのですが、先生の温かい言葉にとても勇気づけられました。上達しないと焦ってしまいがちですが、音楽の勉強には忍耐が必要とよくいわれます。妥協せずに、少しずつでも成長していくことが肝心なのだとあらためて思いました。
 先生のアドバイスには重みがあり、1年間勉強させて頂けたことを幸せに思います。残りの時間はわずかとなってしまいましたが、しっかり努力を続けていきたいです。留学先としてハンガリーに来ることができて本当によかったと感じます。
 音楽以外でも、心温まる体験を何度もしました。いつも通っているうちに銀行のお姉さんと仲良くなったり、スーパーのおじさんとあいさつするようになったり、そのようなことは日本ではめったにないのではないかなと思います。ハンガリーの人たちの優しさを、日本に帰っても忘れないようにしたいです。そして、いつかハンガリー人が日本で困っている姿に出会ったら、私がしてもらったように、助けてあげたいです。
 最後になりましたが、毎日無事に過ごし、勉強に励むことができたのは、ここでお世話になったすべての方々のおかげです。この場をお借りし、心から感謝いたします。
 こちらでの経験は、すべて私の糧となり、ここで学んだことを大切に、これからも精進していきたいと思います。
 そしていつかまたハンガリーを訪れることができれば嬉しいです。
(かねはら・まいこ)
 
 

Web editorial office in Donau 4 Seasons.