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キッチンのお姫様になるまで
Tóth Timea


 

 私は日本語を勉強しはじめて以来、教科書を開くたび、いつも食べ物の絵を眺めていた。「食べてみたい」という気持ちがどんどん強くなり、インターネットで和食レシピを探した。しかし、材料を簡単に買うことができなかったので、悩んでいた。ある日、私の日本語の先生に和食に関する興味について話した。それを聞いた先生がいきなりこう言った。「日本料理の作り方を教えてあげるから、うちで一緒に作ろう」。その約束は、私が和食のキッチンのお姫様になる旅への第一歩だった。
 初めて先生のお宅に歩いていくとき、とても緊張していた。先生の前で失敗するのが怖かった。

 

しかし、先生がドアを開けた瞬間にすべての悩みが吹き飛んだ。先生の台所は結構狭かったので、私は座ったままで先生が教えることを聞いた。最初にお好み焼きを作ることになった。レシピが簡単だったので、私もやってみた。正直、私が作ったお好み焼きはけして美味しそうには見えなかったが、味はうまくできた。先生の子供たちにそのお好み焼きを食べさせてみたら、ほめられた。そのおかげで、もっとやる気になり、先生から幾つもレシピをお願いした。

 だが、その一ヶ月後、先生が日本に帰ってしまった。もう先生と一緒に料理をすることができなくなったが、あきらめなかった。うちでたくさんの和食についてのビデオを見ながら、簡単に作れるものに挑戦してみた。その一つは卵焼きだった。学校で友達に食べてほしかったので、朝早起きしたが、眠くてあまり集中することができなかった。フライパンを持っている間に熱い感触がして、見たら、なべつかみが燃えていた。慌てて水道のところに走り、やっとの思いで火を消した。幸いにも怪我はしなかったが、その間に卵焼きが焦げてしまった。しかし、この事件でも私が和食の作り方をマスターするという決心は崩れなかった。もちろん、その後で作った卵焼きはうまくできた。毎週新しいレシピを試し、父親と二人で住んでいたので、すべてを父に食べさせた。父はハンガリー料理以外はあまり食べたがらない人だが、私の料理はかならず食べてくれた。彼に鶏の唐揚げを食べさせると、彼はこう言った。「このままだと、私の娘はキッチンのお姫様になるかも知れないな」。

 キッチンのお姫様はちょっと子供らしい名前だが、なんとなく気に入った。キッチンのお姫様になれるまで、がんばることに決めた。

 2012年の夏の間にいろいろなおかずを作れるようになった。その秋、彼氏もできたので、彼に弁当を作りたいと思った。漫画やアニメで、キャラ弁という、くまや猫をかたどったかわいい弁当を見て、彼の大好きなバットマンの弁当を作ってみた。中にはおにぎりや、ほうれん草が入った卵焼きや、とんかつなどを入れた。とんかつの上に、チーズを切って作ったバットマンを乗せた。彼に弁当をあげた時の顔は一生忘れない。幸せそうに食べている彼の顔を眺めていて、気づいた。美味しい食事が人をにっこりさせる。自分が作った料理で人を幸せにしたいという気持ちが生まれた。その後、ほかの友達にも弁当を作り始めた。こうして日本料理を友達に紹介して、一緒に楽しい時間を過ごしたりした。

 クリスマスの夜、姉がクリスマスプレゼントとして、レシピブックをくれた。中身は空っぽで、赤いペンで「キッチンのお姫様のもの」と書いてあった。最高のプレゼントだった。それまでにやってみたレシピすべてをそのブックに書き、レシピによっては写真も載せた。そのころはもっと難しそうな和食も作るようになっていた。焼き餃子、エビフライ、肉まん、抹茶ロールケーキなども作ることができた。

 あまり作らないものは、豆腐の入っている料理だ。最初のころ、なんとなく豆腐が入っている料理を作るのが怖かった。そのころはまだ豆腐を食べたことがなかったので、味や感触もよくわからなかったからだ。インターネットでよく見ていた和食のビデオの中に、冷たい豆腐のレシピがあった。ためしに、豆腐を買い、うちで作ってみた。結構美味しそうに見えたので、家に帰ってきた父にすぐ食べさせた。しかし、父は豆腐をプリンと間違えていたので、驚いた。甘くないと文句を言われて、豆腐だと説明したが、結局食べたがらなかった。私も食べてみたが、豆腐は大好物の一つにはならなかった。

 現在レシピブックの中に50ぐらいの和食のレシピが入っている。周りの人たちに和食を紹介するのが趣味になり、毎週誰かにお弁当や甘いものを作っている。料理を見て、はじめは怖がっている友達の顔が、どんどん幸せそうな顔になるのを見るのがすごく楽しい。失敗するときもあるが、うまくできる時が増えてきている。料理が下手な友達が、私に刺激を受けて、私に弁当を作ってくれたこともあった。ほかの人のために料理するのは本当に楽しいことである。私は料理を通して人を笑顔にしたい。しかし、人を笑顔にするキッチンのお姫様になるまでは、まだまだ長い旅になりそうだ。

 
(トート・ティーメア)
 
 

Web editorial office in Donau 4 Seasons.