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百人一首カルタ大会
Károly Orsolya


 どこからか床を叩く音と読み手の声が聞こえてくる。 どこかで数百年以上前から日本に伝わる百人一首カルタをやっているに違いない。場所はどこだ?ここは日本ではない。ハンガリーだ。
 「ハンガリー百人一首カルタ同好会」の歴史はまだ浅く、2013年2月に、ブダペスト法門仏教大学で始まったものである。この会の活動アイディアを考え出したのは3人の学生と日本語の先生である。しかし、ハンガリーでは百人一首カルタの札は買えない。そこでまず、先生がご自分のカルタを会員に貸して下さった。この一箱の札で「ハンガリー百人一首カルタ同好会」の活動が始まった。 
 同好会員を募集するや、入会希望者がどんどん増え、日本人も、他の大学の学生もこの会に足を運んでくれるようになり、練習カルタ大会の開催にまで至った。
 
 その後、さらにセゲドの学生も参加し、競技カルタがどんどん広がる勢いを見せた。これを見て、私たち会員は正式な形でハンガリーの「全国百人一首カルタ大会」を開こうと考えた。まず、先生方が日本でカルタを買って来て下さり、たくさんの会員が自分のカルタを持つようになった。次に、試合用のカルタも手に入れた。会員は週に2回、校内の小さい教室に集まり、カルタの試合に向けて練習に励んだ。また、百人一首は文学である。だから、和歌の意味についても学び合い、ちょっとした古典の勉強もした。競技カルタには特別な読みのスタイルがある。今の時代、百人一首を読むスマフォのアプリもあるが、カルタ大会では伝統的なほうがいい。そのために日本人とハンガリー人の会員が頑張って練習をし、読めるようにもなった。
 2013年春、国際交流基金日本文化センターと日本大使館からご支援をいただけることになり、2013年10月に「第1回ハンガリー百人一首カルタ大会」を、2014年2月に第2回大会を実施した。
 第一回の大会では見学者も含め32人が参加し、読み手は2人いた。試合前、Szemerey Márton先生の講演を聞き、「百人一首」についての知識を深めた。講演後、1時間の休憩があり、その間に皆が会場を整えたり、札を準備したり、持ってきたスナックを食べたりしたが、初試合への緊張もすでに感じられる時間だった。ようやく最初の試合が始まった。皆が札を並べ、どこにどの札が置かれているかを暗記する時間に入った。暗記時間は15分である。その間、試合を見守る日本人もハンガリー人も選手を静かに見つめていた。暗記時間が終わり、序歌が読まれ、最初の歌が始まったと思いきや、「パ~ン!」と音がした。決まり字ですぐに札が取れる会員がいることを皆がすぐに分かった。それから1回戦、2回戦、3回戦と進み、やっと決勝戦になった。この最終戦までたどり着いた選手は札の位置を暗記したり、読み手の声に集中したりして、疲れ切っていた。そして、やがて勝敗が決まった(1位カーロリ大学Balázs Szandra、2位カーロリ大学Kocsis Tünde、3位仏門大学Bíró Andreaさん)。この初めての大会を通し、皆が「百人一首」と「競技カルタ」について理解を深め、同好会々員とそれ以外の選手が、日本人とハンガリー人がお互いに交流を深めた。
 当初、同好者が3人以上にはなるまいと思われたが、今では徐々にハンガリー全土に広がり始めた。この大会に日本語を勉強している学生だけではなく、全く別の専攻生も現れた。その学生は百人一首カルタをしたいばかりに、平仮名と決まり字を暗記したのだが、彼の存在により「百人一首カルタ」は日本語を専攻する学生だけのものと思われがちな固定観念を打ち破った。
 第1回の大会が終わるや否や、同好会は次の大会の日時を決定した。同じ頃、MONDOという日本文化とアニメの雑誌社からインタビュー依頼があり、カルタについての記事と会長のインタビュー記事が12月号に載せられた。その記事を読んで、練習に足を運んでくれた人もいた。
 10月の大会以降も毎週の練習は欠かさず続け、あっという間に2月の「第2回ハンガリー全国大会」の日がやってきた。全体的には前回と同様であったが、内容が少々違った。Szemerey Márton先生は百人一首の古典文法や表現について、前回よりさらに深く面白い内容の講演をされた。その後、会員は前の経験をもとに、長時間に渡るイベントにならないよう、昼休みを一時間から30分に短縮した。参加者は全員で29人、選手は14名だった。第1回では読み手が2人しかいなかったため、4回の試合を読み通すのに結構苦労したが、今回はセゲド大学の赤坂先生、もみじ日本語学校の牧野先生、さらに会員2名も加わって、1試合につき読み手1人の配置で読み手が疲れないようにした。
 第1回と第2回の試合を比較し、選手に大きな違いが見えた。前大会ではあまり多くの和歌を暗記していなかった会員がより多くの和歌を暗記し、決まり字も熱心に覚えたこと。また、日々の練習により、札を取る早さも上達したこと。この大会で優勝したのは、再び前回優勝のBalázs Szandraさんだった。大会終了後、会員は早速次なる予定を考え始めた。第3回目の大会、カルタ夏合宿など、色々なアイディアが出た。
 このカルタ同好会は単に競技カルタを楽しむだけではなく、和歌にも古典文法にも親しむことを目指している。今後もこの会がこれまでと同じように活発に活動を続けて行けば、やがて日本人と同じように正座をし、上の句の最初の一字、二字を聞いただけで札を取ることができるハンガリー人の存在も珍しくなくなるだろう。
(カーロイ・オルショヤ カーロイ大学)
 
 

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