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小林研一郎と池田理 代子のトークディナーショー
坂井 圭子

 

 7月9日のマリオット・ホテル。広間に足を踏み入れると、そこはまさに日本。ハンガリーに居て、これほど日 本を感じたのは久し振りだったのではないでしょうか。華やかなディナーショーに相応しい雰囲気を肌で感じることができました。
マエストロとは、数度となく夕食会にご一緒させていただいています。少々緊張した面持ちで始まるのですが、奥様とマエストロの漫才のようなお話に笑いも加 わり、おいしい食事に舌鼓しながら次第に場の雰囲気は和んでいきます。その後はミニ演奏会になったり、演奏指導に変わっていったりします。私もオペラのア リアや歌曲をマエストロの伴奏にて歌わせていただいたことがありますが、さすが世界の指揮者「炎のコバケン」です。ピアノの音色から奏でられる凄みを肌で 感じながら、自分がどんどん変わっていくという貴重な体験をしたことは今でも忘れられません。
  ハンガリー国立フィルのバイオリニストとチェリストの演奏で始まったこの日のディナーショーも、日本人音楽関係者の演奏や池田氏の演奏が始まると、柔らか い口調でありながら毅然としたマエストロの指導の声が響きました。発せられる一声は、まさに鶴の一声。これまで培われた音楽家としての尊い経験や豊かに育 まれた音楽観から、学ぶ者へ熱く分かりやすくアドヴァイスされます。こちらまでドキドキしながら見聞き入ってしまいました。この後、マエストロは幼少の頃 の音楽に携わることになったきっかけやディナーショーにも参加されていた芸大で肩を並べて学ばれた無二の朋との思い出話を語りながら、いつしか池田氏との 楽しいトークへと導かれていかれました。
  池田理代子氏はあの有名な「ベルサイユのバラ」の作者です。私もオスカルとアンドレの行く末をハラハラしながら読みふけったことを覚えています。一世を風 靡した漫画家池田氏が東京音大に合格されたということを知ったのはいつだったでしょうか。私も声楽を学んでいた者ですから、そのニュースには驚くとともに 随分思い切った転向だなと友人と話していたことがあります。今回、小林先生との共演という舞台で初めてお目にかかることになったわけです。この日は、他の ソリストや団員の方を気遣いながらテンポよくトークを運び、またマエストロの伴奏にて歌も披露されました。47歳から大学へ入学して、常にチャレンジ精神 を持って頑張っていらしたという姿勢がひしひしと伝わってきました。一番おしゃれが気になる若き日に、髪を振り乱し、顔も洗わず必死で描き続けた「ベルバ ラ」が今も歌を続けさせてくれているという言葉からは、この道を選んだ自分自身をきちんと見据えて活動しているというある種の悟りのようなものも感じられ ました。常にマエストロへの感謝を素直に表現されていたことも印象深く残っています。
  声楽家は、楽器をいつも持ち歩いている状況にあります。ある程度の年齢がこないと楽器ができません。その楽器作りも大変ですが、良い状態に維持していくこ とも安易なことでありません。風邪や歌いすぎ、また悪い発声をすれば声帯がすぐにこびりつきます。「たこ」ができれば休めなくてはなりません。何よりもそ うならないように日々努力しなくてはなりません。ホールいっぱいに響く声を飛ばすには、筋トレが必要な楽器なのです。演奏会当日に向けて、楽器とそれを鳴 り響かせる自分自身をベストコンディションへ引き上げていくということは、身体も精神も鍛えていくという日々の訓練に他なりません。同じ声楽を学ぶ者とし ては、50歳近くなって演奏会を始めるということがかなり大胆な賭けであろうことは知るところです。しかしこの日、池田氏の話を聞いて、人はいつでも「な せば成る、何事も!」精神を失ってはいけないのではないかと勇気付けられたような気がしました。
  久々に音楽の世界に浸った時間でした。日々、仕事や家事に追われて自分のことなど考える時間もままならない私にとって、マエストロ小林との再会、そして池 田氏との出会いはとても新鮮で、自分の中の音楽への思いを熱くするとともに、「一期一会」とはまさにこのことだわとこの出会いに感謝させてもらっていま す。
  トークショーはおいしいディナーと相まって、始終にこやかに楽しく進んでいきました。最期は、メゾの鈴木さんやバリトンの浅井さんも加わって「ふるさと」 の全員合唱です。おなかも満たされ、心も満たされ、リフレッシュした面持ちでホテルを後にしました。また明日からも頑張ろうと気持ちを新たにしながら・・

 
 
 

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