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日本人学校補習校その他日本語教 育
 
     
 
 
 
この16人だからこその活動を
吉田 健一

 

 ブダペスト日本人学校の中学部では、開校以来ほとんどの年で総合的な学習の時間に太鼓に取り組み、ドナウ祭のステージで発表してきた。ハンガリーという地で、日本の伝統文化の1つである太鼓に触れ、それを通して日本について知り、日本について発信する1つの方法として学んでいる。
 今年度の中学部は16名でスタートした。残念ながら中学部3年生がいなかったが、昨年度も太鼓を経験した中学部2年生が9名もおり、小学部6年生から中学部に進学してくれた子も4名いたので、太鼓の活動がどのようなものかを知っている生徒の割合が非常に多く、心強かった。
 今年のドナウ祭の計画を進める上で、「16人全員でステージに立つ」ということを自分の中の1つの大きなテーマに決めた。「この16人だからこそできる活動」、「この16人だからこそできる演奏」になるためにはどうしたらよいのかを考えた。毎年、中学部では大きくとらえて2曲を選び、練習してきた。「1曲は去年やった2曲の中から1曲を選び、継承する」、「もう1曲は過去の先輩たちが演奏した曲の中から選び、継承する」という方法をとってきた。どちらも「自分たちの経験」や「ビデオなどの先輩たちの演奏する姿」という参考になるものがある活動だった。しかし、今年はこの心強いメンバーならば、もっと自分たちで作り上げる活動ができると考えた。自分たちで作り上げる活動をすることで、より中学部という集団を高められるのではないかと考えた。これが今年の中学部の太鼓を実施するにあたっての1つの目標だった。
 そこで、夏休みを使ってこの16人だからこそ演奏できる曲を作曲することにした。今までにそんなことをしたことはない私にとって、非常に難しい課題ではあった。しかし、中学部の生徒たちが自分たちで作り上げていく姿を想像しながら作曲することは非常に楽しかった。タイトルも強弱も何もない、ただリズムだけが記されている楽譜が完成した。ここからは練習をしながら、16人の知恵を楽譜の中に取り入れていき、本当の完成を目指そうと考えた。
 ふれあい大運動会のまとめ活動も終わった9月の下旬から太鼓の活動が始まった。始めるにあたって、昨年度から口を酸っぱくして言っている「太鼓はあくまでも『手段』であって、『目的』ではない」ということを再確認した。「太鼓の練習は、技術を高めて演奏者としての力量を求めて活動しているのではない。太鼓への取り組みという『手段』を通じて、中学部としてどんな姿になりたいのか」という「目的」をしっかりともって取り組むことを確認して活動を始めた。太鼓の練習をするだけではなく、何度も話し合いの時間をもって自分たちが進むべき道を決めていった。
今年の中学部の活動の「目的」は、「活動を通して中学部の団結力を高める」と決まった。そのためには何を意識して取り組むのかも話し合い、「見通しをもつなど、計画性をもつこと」「周りと協力したり、合わせたりする協調性をもつこと」と決まった。
 太鼓をたたく時間だけではなく、準備から片付けまで16人全員が主体的に取り組む姿を理想として、練習の日程は教員が提示をするが、内容についてはリーダーが中心となって決めるという方法をとった。初めのうちは、昨年度経験している9人が中心となって準備や片付けの仕方を教えたり、太鼓の扱い方を教えたりしながら進めていき、徐々にそれぞれが自分で何をすべきかを感じて動ける集団へと変わっていった。決して順風満帆ではなかったかもしれないが、うまくいかないことを自分たちで乗り越えて少しずつまとまっていくことができた。本番が近づくにつれて、集団としての高まりが見ていても感じられる、そんな気持ち良さがあった。
 昨年度も演奏した「一番太鼓」がある程度曲として仕上がった後に、新曲「NEW(仮)」の練習が本格的に始まった。作曲者の思いとして、すべてのパートにスポットが当たるようにという思いから、凝った構成の曲になってしまい、リズムを取るところから苦労する子がいた。それでも、パート練習や自主練習でそれを克服し、2週間かけてリズムをたたけるようになった。そこで、各パートで強弱や声、アレンジなどを考えて、曲に組み入れた。実際に入れて曲を流してみると、それぞれのパートの演奏にメリハリがつく半面、曲全体としてのまとまりがなかった。そこで、全体の統一感を出すために話し合いをし、内容を詰めていった。声の出し方を揃え、腕の上げ方にも決まりを作ることで、ようやく新曲「花鳥風月」が完成した。今年のこのメンバーだからこそできた1曲となった。
 今年はドナウ祭と合わせて、2週間後に行われた「第29回国際交流祭inブダペスト」にもご招待をいただいて演奏する機会を得ることができた。ドナウ祭までを1つの目標に取り組み、国際交流祭では、さらに一段レベルアップした姿を見せようと声をかけて取り組み続けた。最後まで、中学部2年生の10人が中心となり、高め合っていく16人の姿があった。自分たちで決めた「活動を通して中学部の団結力を高める」という「目的」は十分に達成できたと思う。
 このメンバーでの最後の演奏は国際交流祭でのステージであった。ヴィガドーという歴史ある立派なステージに立つ機会を得て、16人の素晴らしい姿をたくさんの方に見せることができた。演奏はもとより、ここまでの団結した姿があったからこそ、演奏が終わった後の大きな拍手、拳を突き上げる観客の姿があったのだと思う。
やらされてやる活動ではなく、生徒自身が主体的に取り組む活動をすることで、16人全員が1段も2段も成長することができたのではないかと思う。同時にこの16人だからこそ、ここまでの活動ができたのだと思う。この16人と共に1つの作品を創り上げることができたことが本当にうれしい。

(よしだ・けんいち 日本人学校教諭)
 
 
 

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