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日本人学校補習校その他日本語教 育
 
     
 
 
 
みどりの丘日本語補習校
越野 絵美

 
 当補習校は2005年に設立され、昨年度10周年を迎えました。2008年からは文部科学省から海外補習授業校として認定を受けています。経営母体はハンガリーで正規に登記されているZöld Domb 財団で、ブダペスト2区からトゥルクヴィース小学校の教室を借りて授業を行っています。設立当時は本当に小規模の学校でしたが、現在では小学部1年生から6年生、中学部1年生と3年生の8学級あり、平日は現地学校または国際学校へ通う39名の児童生徒が土曜日の午前中、国語の勉強に励んでいます。
 講師は現在8名おり、全員現地採用の日本人です。補習校での勤務年数が3-4年目という経験を積んできた先生方が増え、喜ばしく思っているところです。世界中の小規模の補習校が同じ問題を抱えているようですが、当補習校でも家庭の事情でなかなか長期に勤務していただけないことが多く、講師間での経験の伝達や共有に苦労してきました。しかし今年度からは、経験を積んだ先生に引っ張っていただけるようになったので、心強く思っています。
 補習校は毎週土曜日、国語だけを勉強しているわけではありません。学校行事もあります。4月の入学式、始業式を始め年に数回行事が行われます。4月と3月に行う式典は子ども達に日本の「式」を経験してほしいとの願いから、日本の形式で行っています。きちんと立つこと、一列に並ぶこと、しっかり頭を下げてお辞儀をすることなど、ハンガリーの学校や国際学校では習わないことを、式典を通して学んでもらいます。
 5月には遠足があります。普段はあまり交流のない異学年の児童生徒や担任以外の先生との縦の交流、親睦が目的です。今年は学校近くの鍾乳洞へ行きました。学年が違う子ども達で作られたグループで歩いて鍾乳洞まで行き、午前中はグループごとに旗を作るなど色々な活動をして、昼食後に4年生以上が鍾乳洞を見学しました。鍾乳洞の見学ではハンガリー人のガイドさんが説明をしてくれましたが、ハンガリー語がわからない児童生徒には日本語通訳が必要でした。通訳をしてくれたのは、補習校を一昨年卒業した男の子でした。卒業生が通訳をする姿はとても輝いて見えたのではないかと思います。
 9月には、日本人商工会と日本人学校が主催されているふれあい運動会に、毎年参加させて頂いています。現地校や国際学校では日本のような運動会がないので、パンくい競争や徒競走、リレーなど親子共々楽しみにしています。近年は保護者が参加できるリレーもかなり盛り上がっており、応援にも気合がはいります。外国人の夫や妻には組体操や応援合戦が珍しく、そのレベルの高さに驚いています。
 3学期初めには、カルタ大会が開かれます。小学部は俳聖カルタを使い、中学部は百人一首を使って行います。毎年行っているので、子ども達も覚えているカルタの数が年々増え、学年が上がるにつれ白熱の接戦となります。
 2月には1年の総まとめでもある学習発表会が開かれます。教科書の単元の音読もあれば、詩の朗読、劇もあります。1週間に4時間、その中で教科書をこなしていかなくてはならないので、学習発表会の練習時間は限られますが、毎年皆の頑張りを見ることができるよい機会となっています。
 このように毎週の授業や行事がある補習校ですが、運営は保護者が行っています。永住家庭だけでなく駐在員家庭の保護者も入り、色々な案や意見を出し合っています。運営委員会に入っていない保護者にも、いろいろな係を担当してもらっています。補習校の保護者の皆さんは本当に協力的で、感謝しています。
 補習校は年間約35日で、授業時間がとても少ないです。その中で日本の教科書を使って子ども達は国語を学んでいます。授業がスムーズに進んでいく為には、家庭学習はなくてはならないものです。数年前から「音読」にとても力を入れていますが、一緒に読んだり、聞いてあげたり、高学年になると振り仮名をふる手伝いをしたりと、保護者の協力が不可欠です。保護者に負担はかかりますが、「音読」がしっかりできると、教科書の内容がよく理解でき、授業への参加も活発になります。そして保護者が「音読」をサポートする中で、いろいろな会話もうまれます。小学6年生の単元には原爆ドームに関するものがありますが、娘がそれを勉強していた時、原爆について、戦争について、戦後についてと、たくさん話をしたことを憶えています。彼女が現地学校で学んだハンガリーの戦後の歴史と日本の歴史を比べたりもしました。このような会話は日常生活ではなかなかできません。子ども達は教科書を使って国語を勉強するだけでなく、それぞれの単元を通して日本の歴史や文化も学んでいるのだなと実感しました。
 補習校で学んでいる子ども達の家庭環境は様々です。多くの家庭が二重国籍ですが、その中でも母が日本人か父が日本人かによって、家庭での日本語とのふれあい度も違ってきます。学年があがるにつれ、平日に通う学校で使う言語の語彙がどんどん増え、生まれてから日本語でしか話していない家庭の子どもでさえ、日本語の文章の中にハンガリー語の単語が入った文を話したりします。補習校の宿題を嫌い、子供が疲れている姿を見ると、補習校に通わす意味があるのだろうか、と考えることが何度もありました。しかし、在校生の前で答辞を読む娘や同級生を見て、やはり続けてきてよかったと思うことができました。答辞の内容は、「今まで補習校へ通う意味がわからず、国語の勉強も嫌だったが、現地校での受験の面接時、自分がハンガリー人であると同時に日本人でもあることを意識し、これまで補習校へ通い学んだことを通して日本人であることを誇りに思えた」、という内容でした。
 子ども達にとっても保護者にとっても補習校に通うことは大変なことですが、国語の勉強を通して日本を知り、日本人でもあることに誇りをもてる児童生徒が育つ補習校を今後も目指して行きたいと思っています。
 

(こしの・えみ 補習校運営委員長)

 
 

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