高校生の頃、縁があり3年間チェロを弾く機会に恵まれました。しかしその頃は、楽譜を渡され、ただただ音符を追っていき、時には「弾きたくない」と思うことすらありました。実際、その頃の楽譜ですら手元に無い始末です。その後、音楽とは全く違う分野に進みました。しかし振り返ると、あの時、みんなで(オーケストラ)で、一つの曲を弾き終えた時の充実感や達成感は、私の記憶の大切な部分で楽しい想い出として残っています。どうやら、私は音楽が好きなのだと気づかされます。
 そんな中、機会があればプロの演奏を聴きたいと思っていまいましたが、時間だけが過ぎていました。それが今回、世界的に活躍されている小林研一郎氏の指揮で、「火の鳥」、「エロイカ」が聴けるチャンスに恵まれ、喜びイタリア文化会館へと行かせていただきました。
 「火の鳥」は以前、フィギャスケートの曲に使用されていたのを聴いたときから印象に残り、一度は生のオーケストラで聴いてみたいと思っていた曲でした。まず、会場に入ると指揮者や奏者と観客の距離の近さに驚きました。演奏が始まる前の緊張感がダイレクトに伝わってきます。その近さは、演奏が始まるとますます私を興奮させました。奏者の表情や指揮者の手の動きまでしっかりと見えます。指揮者の手を見ていると、私まで演奏をしている一人のような気分になり、楽譜もなくエネルギッシュに髪の先まで使い表現している姿に目を奪われました。演奏も力強く、管楽器の音の迫力にどきどきです。終わったときの演奏者の表情に、私自身も楽しくなりました。
 音楽はやはりいいものです。ここ音楽の地ハンガリーにいるのですから、子供達がもっと音楽に触れられる機会をつくり、心のどこかになにかを残せて、いつの日か私のように思い出してくれたらと思います。素敵な時間をありがとうございました。

(きくち・あかね)